[K17221-004]


「大丈夫だ。・・・多分」

気合を入れて目の前のドアを見ながら小さく自分に言い聞かせる。
体は緊張でガチガチに固まってるし、なにやら挙動不審な気がするが・・・。
大丈夫だ!
大丈夫だビャッコ!
DAIJO−BU!!

・・・逆にダメな気がしてきた・・・。

目の前に見える扉はマコトリーダーの部屋。
プライベートの部屋ではなくリーダー専用の・・・つまり
『探求・救助班Aチーム』作戦会議室とも言えるだろう。
俺は正直謹慎中で仕事していないのでなんともいえないが・・・。

重々しい茶色のドアに手をかけようとして躊躇って固まる。
そんな動作をしている俺をこの部屋近辺のリーダー格の人々が不審者のように見てくる。

何故俺がこんなにも躊躇っているのか・・・。
それは、呼び出される事実に若干―――心当たりが2つほどあるからだ。
1つは、6日前の街中でのフリントとの乱闘。
もう1つは・・・今ここにはいないルームメイト兼同僚の
あの災厄を持ってくる貧乏神というかそんな感じの名前が「ア」から始まる奴のせいだ。
いや、両方とも俺は悪く・・・ない、と思うんだけど。
そう、悪くない。
ああ。悪くないとも!

なんかやけっぱちに自分に言い聞かせて―――それから五秒考えて扉をノックした。
コンコンと小気味よい音が響いた。
勢い良く叩きすぎたせいか、若干手が痛かったが気にしない。

「入ってくれ。」

扉の奥からくぐもったマコトリーダーの綺麗なアルトの声が聞こえた。
いつもながら凛としていらっしゃる。
俺は重々しいドアをゆっくり開けて後ろ手にドアを閉める。

「ビャッコ。只今参りました!」

びしっと格好よく敬礼。
ただし、なんか挨拶が間違っていた感じがした。
全体的に茶色と赤色の家具で統一された作戦室の奥で美人のリーダーがくすくすと笑っていた。
リーダーは高級そうな机の前の椅子を指差し「掛けてくれ」と促した。
とりあえず緊張を見せないようにガチガチ動く。
ガチガチの時点で失敗した気がしたが気のせいだと思いたい。

なんとか不自然でない程度に普通にリーダーと高級机を挟んで向かい合う。

「まあ、そう緊張しないでくれ。怒ってるわけじゃないからな。」

クックッと笑いをかみ殺すように口に手を当てていわれる。
・・・ばれていたらしい。
リーダーはニヤリと笑って肩をすくめた。
・・・なんだか心を読まれているようだ。

「君はよく顔に出るな。さて・・・ここに呼び出されたことに心当たりはあるかい?」
「へっ!?・・・いや、そ、その・・・特には・・・」
「ああ。そう怖がることじゃないよ。実は、これを見てくれないか?」

すいっとカードのようなものを俺の目の前に滑らせる。
丁度IDカードと同じくらいの大きさのそれを俺は拾い上げた。

「『戦闘班転籍届け』・・・?って、なんですか?」
「見ての通りだよ。」

リーダーはため息をつきながら肩をすくめる。

つまり・・・

『私の隊に君のような無能な奴はいらん!出て行け!』

・・・ということなのだろうか!?
いやいやいや!さすがにないよね?
ってことは・・・

『戦闘班に移動し・・・腕を磨いて戻って来い』

・・・いや、これの方がないよなぁ・・・。
しかし、まさか、やっぱり俺、いらない子・・・?

どっと汗がでてカードをみつめる。
まだ、入隊して一週間なのに・・・!
謹慎してはいるけどあれはアズのせいであって・・・!
能力だって悪くないし、それに、まっさきに切るならあいつだろ!

「何やらネガティブになっているようだが・・・
 実は君に戦闘班からスカウトがきたのだよ。」
「え?」
「だから、スカウトだ。君の能力は攻撃の方が向いているからな。」
「いや、え?でも・・・」
「まぁ、私としては残ってもらいたいが、君が戦闘班に移りたいならそれを使うといい。」
「は、はぁ。」

よかった。俺、いらない子じゃなかった・・・!

「そのカードを自室のコンピューターに差し込めば登録完了となる。」
「いえ、でも俺、移る気ないですよ?」
「そうかい?だったら捨ててもらってかまわないよ。」

さばさばした口調で話は終わったとばかりに脇に追いやってあった冷めたコーヒーに口をつける。
「飲むかい?」と目で聞かれたので首を振った。

「ええっと・・・用件は、以上、ですか?」
「ん?まぁな。それとも、何か心当たりがあるのかい?」
「いえ!?と、トンデモナイデスヨ!!」
「何故棒読みか気になるところだが・・・そうだ、ポイントの方は大丈夫だったかな?」
「えぇ、まぁ・・・自炊すればなんとか。」

正直、謹慎中なのに給料半分もらえるだけでもありがたすぎる処置だ。

「それはよかった。しかし、きつくなったらすぐ言うといい。」
「はい。ありがとうございます。でもバイトもすればなんとか稼げますし・・・。」
「そうだね。でも、手っ取り早いからといって賞金稼ぎまがいのことはしてはいけないよ。あれは危険だからね。」
「はは。大丈夫ですよ。今も募集しているんでしたっけ?」
「ああ。だが何度も言うようだが、危険だからそういう関係のバイトはだめだぞ。」
「大丈夫ですって!」

実際、組織の人間が指名手配犯を捕まえるよう要請されることは珍しくないが、
俺はあんまり戦いとか進んでするタイプじゃないからする気もない。
せいぜいやるバイトなんて売店の店員くらいだろう。

「・・・そういえば、アズとは上手くやってるかい?」

ぎくりと体がこわばり、顔が固まるのを感じた。
しかし、幸いリーダーは手元のコーヒーに砂糖を加えていたため気づかれなかったようだ。

「え。いやぁ・・・ははは・・・」
「まぁ、昔からアイツは人付き合いがだめというか・・・迷惑を掛けてすまない。」
「いえいえ!大丈夫ですよ!」

本当にダメな奴ですけど!!

「そうかい?だったらこれからもよろしく頼むな。」
「いや、その言い方だとアズの家族みたいですよね!ハハハ・・・」
「ああ。わかるかい?」

・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え。

「なんと?」
「ん?」
「もしかして・・・リーダー・・・ってアズの、肉親とか・・・?」
「まさか!」

からからと笑うリーダー。
で、ですよねー。そんなことはないよねー。
びっくりしたよ。まったく。


「私が育ての親なだけだよ。」


・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・はいいいいいいいぃぃぃぃっ!?!?!?
思わず机に両手を叩きつけて立ち上がってしまったため、リーダーがカップを退避させた。

「え!?ちょ、リーダー!?アズの育ての・・・おやぁっ?!」
「取り乱しすぎだと思うのだが。」
「乱しますよ!聞いてませんよ!そんなの!」
「話してなかったかな?」

合点がいった!
アズがやたらリーダーの言うことしか聞かないのも!
なんでこんなチームにあんな落ちこぼれがいるのかも!!

「まぁ、その話はおいおいするとして・・・とにかく上手くいっているなら何よりだよ。」

いや、こっちは全然よくないんですが。
そもそも何故!?どういった経緯で育ての親!?
リーダーってまだ確か20代後半だって言ってたような・・・。
つまり、えーっと。
思考がぐちゃぐちゃしてしまった俺を置いてリーダーはカップを置き


「そういえば。アズの姿がここ2、3日見当たらないんだが。知らないか?」


俺の色んな意味で触れて欲しくなかったことを触れた。


「え、い、いや・・・そうですか?あああ!!俺シュミレーションまだ3回してないんで行ってきますね!!」

上手いこと誤魔化して立ち上がる。
リーダーがきょとんとしてこちらを見て口を開く前に「失礼します」と叫ぶようにして部屋を後にした。

ドアを勢いよく閉めてがむしゃらに走る。


まずいまずいまずい!
絶対ばれたよ!
しかも・・・あれだ・・・リーダーが育ての親ならなお俺の立場がない!
どうするべきか!?
ああああ・・・どうしようもないけれども!!

廊下を走っているため組織の人間がこちらを見てきた来たが知ったことではない。
心臓がバクバクいってるよ。
IDカードをドアに突きつけて自室に入り込んだ。
二人が使うにしては少々狭い清潔感あふれる自室。
片方のベッドは部屋を飛び出してきたときと変わらずぐちゃぐちゃで・・・
異様なほど何もない部屋の半分。

「やっぱ帰ってなかったかああああぁぁぁ・・・・」

落胆とため息と愚痴を同時に吐き出して自分のベッドに倒れこむ。
ちょっと期待していたんだよ。正直。
ドアを開ければいるんじゃないかって。

そう、三日前からアズは行方不明だった。

家出というのだろうか・・・これは。
しかし、いったいどこに行ったというのだろうか・・・。
アズは俺と同じで孤児だし、この世界出身でないから行くあてもないはずだ。
だから探すにしてもどうすればいいのかわからない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・。
いや、まぁ・・・原因はわかってるんだけどね・・・。
むしろ俺に落ち度は完全にないと思うんだけどね。

ぐるぐると考えながら頭を抱える。
俺悪く・・・ない、よなぁ・・・?
ため息をつきながらリーダーに貰ったカードを見る。
なんでいつもこれだけ迷惑掛けられてしまうんだろうか・・・。
不可解だ。
俺何か悪いことしたんだろうか・・・あ。やべ。泣けてきた。


と、思考がネガティブに行こうとした時部屋に響き渡る音にびくりと体を硬直させた。
誰かが部屋の外でベルを鳴らしたのだろう。

い、居留守しようかな・・・?
だって、この場合確実にリーダーだろ!?
問い詰められてどう答えりゃいいんだよ!?
いや、でも逃げてるみたいでいやだしなぁ・・・。
むしろ、胸を張って事実を打ち明けるべきかな?
・・・やっぱり打ち明けるべきだろう!

うん。そうしよう。

むくりと立ち上がって、それでも拒否を示す体を叱咤してのろのろと扉を開ける。
そこにいたのは・・・

「ビャッコ君。今大丈夫ですか?」
「・・・え、ヘル先輩?」
「はい。」

微笑んでそこにたっていたのはポニテ姿が麗しい美少女の先輩だった。
予想外の来客に呆然としていると、ヘル先輩は申し訳なさそうに

「実は、廊下を疾走しているビャッコ君が見えて・・・どうしたのか心配になってしまいまして。」
「え?いやぁ。すいません・・・ちょっと取り乱してて。」
「何かありました?」
「いや、何かって訳でも・・・ははは・・・」
「先輩に嘘はいけませんよ!ちゃんとわかってるんですから!」
「え?」
「またアズ君とトラブルがあったんでしょう?」

 ギ ク リ 

「え、ええ・・・まぁ。」
「さては、アズ君と喧嘩をして家出をされたんですね!」
「ええええええ!?!?なんで知って・・・」
「え、ほ、本当に家出なんですか!?」
「ちょ、当てずっぽうですか!?」
「はい!それよりアズ君が家出ってどういうことですか!?」
「ちょ、ちょっと!声抑えてください先輩!!」

廊下を通った人が何人かこちらを見てきたが、気にせず歩き出した。
ヘル先輩は口を押さえてぱくぱくと説明を要求しているようだ。
声を抑えろと入ったけど話すなとはいってないんですけどね・・・。

「まあ、とりあえず入ってください。」
「はい。お邪魔します。」

遠慮せずにきびきびと入室する先輩。
目は爛々と輝き、事情を話すまで帰ってくれそうにない。
とりあえず先輩を片方の椅子を勧め、向かい合う形で俺も座った。
一息ついてから最大限に聞く能力を発揮しようとしている先輩を見て口を開いた。
いざ、話そうと思うとけっこう躊躇ってしまう。

「えーっとですね・・・家出というか・・・帰ってこないんですよ。」
「それは、どれくらいですか?」
「もう・・・3日になりますね・・・」
「3日ですか・・・!?で、でもどうして喧嘩したんですか?」
「いや、まぁ・・・それはですね・・・」

やっぱり言うしかないよなぁ・・・。

「その、アズと俺って謹慎中なんで給料半額じゃないですか。」
「そうみたいですね・・・」
「それで、自炊してたんですけど・・・アズの奴、生肉食べたり野菜ばりばり食べたり・・・
 料理、まったくしてなかったんですよね。」
「ざ、斬新ですね・・・」
「それで、『料理できるのか』って聞いて『できる』って言うから・・・」

そこからは売り言葉に買い言葉。
できるというならやってみろといって、アズが了承した。
その時点で、やめるべきだったのだ。
ちょっと考えればわかることだった。
何故生肉を平気で食べる奴が料理したことがあると思うのだろうか。
できると思う方が、ある意味間違っていた。

「それで、アズがその・・・肉を焼くのに火薬を使用しまして。」
「え、か、火薬・・・ですか?」
「ええ。フライパンの上に。」
「えええ!?」

結果からいって、もうちょっとで大惨事だった。
途中で慌てて俺が止めに入ったのでフライパンが完全崩壊した程度で終わった。

「・・・それで、ですね・・・あまりに反省してないんで口論になりまして・・・。」

口論というか、まぁ、実際俺が怒っていただけだったのだが。
アズはいつもどおり人の話を聞いていなかった。
4日も一緒にいたからそれが普通だってわかっていてもその時異様に腹が立った。
こちらがどれだけ迷惑かけられたと思っているか言って、

「・・・『出て行け』と言ってしまいまして・・・。」
「それで、出ていてしまったんですか?」
「はい。」

・・・。
・・・あ。やばい。なんか喧嘩の内容話すとすごく馬鹿らしく思えてきた!
少し恥ずかしくなってきて俺はじっと覗き込んでくる先輩から顔をそらした。

「それは・・・アズ君が悪いです!」
「・・・へ?」

きっと俺が責められるだろうと思っていたので、憤慨しているヘル先輩は意外だった。
先輩はキッと目を吊り上げて拳を握る。

「フライパンさんをめちゃめちゃにしたのに謝罪もないなんて!怒って出て行くなんてただの子供です!」

フライパンさんって・・・。

「ビャッコ君!アズ君を探しましょう!それでフライパンさんとビャッコ君に謝らせます!」

がしっと俺の右手を両手でしっかり握る先輩。
目はやる気に満ち溢れて爛々と輝いていた。

「え、あ。はい。」

あ・・・やべ。つい勢いで頷いちまった。
こんなに押しの強くて正義感強い人だったんだー・・・。

「では、さっそく行きましょう!まずは聞き込みからです!」
「え、ちょ、まっ・・・」

ぐいっと手首を引っ張られて椅子をなぎ倒しながら引きずられる形でドアに向かう。
そこで、
ベルの鳴る音が部屋に響き渡った。

「あれ、来客でしょうか?」

きょとんとしてヘル先輩は手首を放してくれた。
ほっと胸をなでおろす。
本当に強引なひとだ。
「俺が出ますね」と言って扉をスライドさせる。

そこに人の姿はなかった。
代わりに紙切れが置いてある。
コンピューターで入力されたような文字、急いで破り捨てたような紙くず。
そこに並んでいた文字の意味することに愕然とする。

『オマエノ同僚ハ預カッタ。
 返シテ欲シクバ、下記住所ニ午後7時ニ一人デ来ラレヨ。』

・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・な。

「なにいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ???!?!?!?」

え、同僚・・・7時、一人!?
な、何がなんだかわからないよおい!!なんだこの展開!?!?
誘拐!?
アズが!?
誰に!?
なんで!?
あああああ!!!わからないことだらけだ!!


混乱する思考の中では、何も答えは出てこない。
唯一つだけわかることは、

また、アズのヤローが俺に災厄をもたらしたってことだけだった。



「こ、今度は誘拐事件ですよ!ビャッコ君!」
「ああ・・・もう俺疲れた・・・」


つづく

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