[K17221-002]

目を閉じ、すう・・・と、息を吸って意識を周囲に集中させる。
今は集中しないといけない。
これから現れるのは人間の敵―――バグなんだ。
あいつを殲滅しなければ・・・殲滅することが我々の使命。
『世界救済機構』の使命。

生き残るために。
世界崩壊を防ぐために。
もう二度と、俺の世界と同じ末路を他の世界に味あわせないために。

目を開けて油断なく構える。
あたりは視界が一m前後もきちんと見えてくれない樹海。
うっそうと茂る南国のような木々が邪魔で動きが制限させられるはずだ。
でもそんなの関係ない。俺は目的を達成させるだけ。
ぎゅっと組織から支給されているナックルの感触を確かめた。
腕に力を送り込み、息をゆっくり吐く。

目の前に、手のひらほどの大きさのうごめく黒い塊が空間に出現したとき、俺は地面を蹴った。
迷うことなく黒い塊―――バグを捕らえて拳を突き出す。
あっけなくデータの破損のようなバグは消え去る。
しかし後ろに新たな気配。
俺は自分を信じてそこに拳を突き出し―――破壊。
立て続けにくる新たなバグの気配に内心舌打ちしながらも、
肉体をフルスピードで動かして破壊した。

破壊。破壊。破壊。破壊。
破壊破壊破壊破壊―――

そのうち対処できないスピードでバグが増殖し、目の前を黒一色で染める。
その意味を理解し、俺は驚愕で目を見開き・・・しかし思い当たることがあって愕然とした。

全ての世界が黒く染まったとき、目の前に現れる赤く光る文字。
そして密林のセットは消え去り、見慣れた鉄のフロアに姿を変えていった。

【シュミレーション失敗】
【評価:D】
【難易度:SSS】

同僚に頼んだこととまったく違う文字が表示されたことにより、
俺の頭は沸騰するようにぐつぐつ煮えたぎった。
そして咆哮。

「アズてめええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「何?」

さっきバグを破壊して回った時より速いスピードで、
シュミレーションルームのすぐ外で機械をいじっていた同僚に詰め寄る。
同僚である常にやる気がない少年・アズは無表情で淡々とした口調で聞き返す。

「俺は、難易度、Cから、はじめるって、言ったよ・な?」
「高ければいいんじゃないの?」
「言ってないっての!!大体最高難易度のバグ破壊訓練なんぞ誰がクリアできるんだよ!!」
「シロ。」
「できるかあああああぁぁぁ!!!それと俺はビャッコだ!!」
「白いけど?」
「白いけれども!名前で呼んでお願いだから!」

俺は自分の生まれつきの白髪と白い耳を呪う。こんな形で呪うとは思わなかったけどな!!

「大体シロが前にも今回も力出し惜しみしてるから。」
「何だよ!?俺のせい!?前のフリントの件はしょうがないだろっ!さすがに一位には無理だって!」

アズのやる気のない目が少し細められた。
言葉にあらわすなら「ふーん」っぽい。だけどそんな目で見られてもなぁ・・・。
入隊式にアズが叩き伏せた少年は自分の能力より一段階上。無制限に能力を行使できる。
そんな奴に敵うわけがない。
第一、今だって本気でシュミレーションのバグ破壊が出来なかった。

「強化種二位」
「え。」
「能力。」
「え、いや・・・そうだけど。」
「出し惜しみ。」
「してねぇよ!!大体、俺はパワー強化型なの!スピードがなきゃ最高難易度なんて無理だって!」

俺の能力は強化種二位『肉体強化』―――肉体を人間の限界以上に力を発揮できるように出来る。負担をかけずに。
十位が最低、一位が最強と分類された能力の中ではかなり上のはず・・・だけどなぁ・・・
フリントみたいな遠距離攻撃できる奴には必然的に不利となってしまう。

「能力だって相性あるだろ?第一、昨日の事は普通事を荒立てないように気を使ったの。」
「へえ。」
「それにお前ちょっとは反省しろよ・・・誰のせいでめんどくさい訓練やらされてると思ってるんだよ?」
「プリント」
「いや!間違っちゃいないけど!名前も責任感もどこか間違えてますよね!!」
「ん。」
「わかってんのなら反省しろ!!誰のせいで船から出られなくなったと思ってるんだよ!?」
「広いし不便ないけど。」
「いや、まあ小さい世界ひとつ分くらいはあるけど・・・ってそうじゃないだろ!?」
「何」
「だから!お前のせいでシュミレーション一日三回と一ヶ月世界間移動禁止令が出たんだろ!!」
「それが?」
「だ・か・ら・・・!他の隊員は既に他世界で実践積んで来月の対抗戦に備えてるの!俺たちは圧倒的に不利!わかる?」
「え、何それ。」
「あああああ・・・もうなにこいつ何で何も知らないの!?」
「聞いてなかったから。」
「ですよね!」

昨日の入隊式で起こしたこいつとフリントのいざこざのせいで・・・連帯責任を取らされた。そういうこと。
俺とアズはもう既に実際の他世界で本物のバグを壊したりして世界を救ったりしている同期の隊員と違い――
他世界に移動することもできず、日に三回のシュミレーションバグ破壊訓練が義務付けられた。
もう俺涙目。

「シロ。後二回。」
「ビャッコだっての!大体次はお前やれよ!」
「何怒ってるの。」
「あああもう!!じゃあお前も難易度SSSやってこいよ!!クリアしたらシロとでもなんとでも呼べばいいから!!」

アズは黙って目をすっと細めた。
え、まさか、やるの?本気で?
確かにアズの能力ってスピード重視っぽいけど最高難易度だよ?
一位に認定された能力者でもクリアできない奴の方が多いって・・・
いや――― こ い つ な ら や り か ね ん 。
昨日の入隊式でのいざこざを見るに・・・もしかしたらクリアできるんじゃ・・・?

「あ、あのさ・・・アズ。さっきのシロとか呼んでいいって言うのは・・・」
「動きが遅いんだけど。」

既にスタンバイしていらっしゃった。
シュミレーションルームの防弾ガラス越しにこちらを見るアズの目は、いつもどおり死んだみたいな目だった。
俺はとりあえず機械を作動させ、難易度SSSに設定して様子をちらりと見る。
アズは支給された武器でナイフを数本選ぶとポケットに入れ、肩の力を抜いてやる気のない表情で立っている。
機械が作動してアズの周囲が廃墟のような、レンガが多数ある風景へと変貌した。

ふと、あいつの能力の内容が気になってしまった。
強さはしっていても内容まで調べたことなんてなかった。
そもそも、成績最下位の奴のことなんて誰が好き好んで調べるって・・・いや、フリントはやりそうだけど。
能力は「攻撃種五位」と攻撃能力の中では一般的・・・
『遠距離空弾』?いや、『中距離波弾』かな?
頭の中に単語を並べて首をかしげる。どうもしっくりこない。
ちらりとアズの方を見ると、既にシュミレーションは開始してバグが増殖し始めていた。
アズはぴくりとも動かず付近のバグを破壊している。

俺は視線をそらして腕に備え付けられた薄型時計に触れて別のモードに切り替える。
薄っぺらいガラスのような立体映像が目の前に映し出され、それに触れて検索をかけることにした。

【検索】
【探求救助班A】

そこに隊長の三雲マコトをはじめ、隊員の名前が表示されている。
隊長を含めると七名の人物が記録されていた。
その名前の下から二番目をタッチする。

【アズ】

するとやる気のない顔写真と共に、少ないがプロフィールらしきものが表示された。

【名前:アズ】
【年齢:14】
【性別:男】
【出身世界ID:-】
【人種:人間】
【能力種別:攻撃種五位】
【能力名:特性転移】

トクセイテンイ?なんだそれ?
俺は腕時計をもとの映像にもどして首をかしげた。
すると割と近くにアズが立っていることに気づいた。
じとりとした目でこちらを見ている。

「悪趣味。」
「・・・え、あ、あれ?アズ終わったの?」
「負けた。」

どこか拗ねたようにそっぽを向いて俺の隣の機械の椅子にどかっと座る。
ちらりとシュミレーションルームを見れば俺が見たのと同じ文字列。
しかし、一部違っていた。

【シュミレーション失敗】
【評価:B】
【難易度:SSS】

評価がB・・・ってことは評価Dの俺より上のスコアにはいったわけだ。
A以上が合格なんだからクリアできなくても及第点だろう。
そもそも、攻撃種五位が最高難易度でB評価受けること自体初耳だよ、おい。
やっぱりこいつ能力無視の尋常じゃない強さを持てる気がする。
しかし納得ができないのかアズはいつもの無表情ながらそっぽを向いて拗ねていた。
子供かお前。
いや、年齢的には子供でいいんだろうけどさ。

「で、何が悪趣味だって?」

アズは無言で自分の腕時計を起動させててきとうに操作し、
プロフィール画像を表示させた。

【名前:ビャッコ】
【年齢:14】
【性別:男】
【出身世界ID:-】
【人種:獣人】
【能力種別:強化種二位】
【能力名:肉体強化】

って・・・!

「なんで俺のプロフィールのぞいてるんだよ!」
「情報収集」
「俺はお前の敵なのか!?!?」
「シロもやってた。」
「ビャッコだっつに!やってましたけど!お前が自分の能力のこと教えてくれないからだろ!」

アズはいつもの無表情を貫き通してつーんとそっぽを向いた。
完全無視体制に突入しやがった・・・!!
ここここのやろう・・・!!

「大体『特性転移』なんてはじめて聞いたぞ?」
「・・・。」
「・・・プロフィール改ざんしてるわけじゃないよなぁ?」
「何、人のせい?」
「違いますけども!!お前にだけは言われたくないよそのセリフ!」
「・・・。」
「このヤロウ無視モードか!?」

ふいっと顔を画面にそらされた。チクショウムカツク!
そしてカチカチと難易度SSSにシュミレーションを再設定して立ち上がった。
おいおいおい!まだ三分も休憩しないのに最高難易度もう一回やるのか?
さすがにあのスピードで能力酷使したらやばいんじゃ・・・?
その事実に気づいてさすがに慌てて袖を掴む。
するとアズが無表情でくるりとこちらを向いた。

「何。」
「いや!だからいきなり最高難易度はやめろって!それに能力酷使してぶっ倒れたらどうすんだよ!」
「何それ。」
「何って・・・能力酷使・・・したら消耗しない?普通。」
「しないけど?」
「は、え・・・それ本気?」

俺があっけに取られているとアズは袖を軽く払ってシュミレーションルームの方にスタスタ歩いていった。

まてまてまて!そんな奴いるはずないだろうが・・・!
能力ってのは便利な力じゃないんだぞ?無知にもほどがあるだろう・・・!?
必ず何かしら制限があって使い続ければ体に支障をきたしてくるのが当然だろうが!
フリントみたいな能力の強さが一位クラスなら別かもしれないけどさ!
と、叫びたいのをぐっとこらえてスタンバイしてるアズをじと目で睨んだ。

こっちだって心配してるのにどこく風だなあいつ・・・。
一回倒れた方がしおらしくなるかもしれないな・・・。

「本当にもう止めないからな!!」
「亀。」
「てめぇは一回ぶっ倒れろ!!」

迷わずパネルを叩いてスタートさせる。
アズはちらりとこちらを一回見て支給品のナイフを数本取ると両手に持ち、だらりと手を脇にたらした。
バグが出現して、またもやアズが動くことなく能力により破壊されていく。
俺は大げさにため息をついて機械にひじをついてその様子を見る。
アズに近づくバグが綺麗に消えていくのを眺め、圧倒的なスピードを誇るそれを見て少しすごいと思った。
『特性転移』ねぇ・・・。
言葉どおりなら、アズの持っているナイフの『特性』を移動させているのだろう。
ナイフなら『切る』という攻撃方法が別の空間にて執行されるってとこか・・・?

あながち間違ってないだろう推測に俺は納得したように頷いた。
便利そうな能力だと思った。
いいなぁ、遠距離攻撃。俺も遠距離攻撃とか波動とかだせたらなぁ。

「お。張り切ってるな。」

豪快な女性の声が後ろから響いて俺はだらけた姿勢を即座に正した。
そして立ち上がって敬礼。
セミロングの赤い髪の女性は肩を震わしてくつくつと笑うと、手でそれを制した。
美女と言うより美形と言う表現が似合うリーダーは無駄のない動きでアズとディスプレイを見比べた。
探求救助チームAのリーダーこと三雲マコト・・・それが彼女だ。

「アズは最高難易度挑戦中か。」
「ええ、まあ。・・・ええっと、リーダー・・・何かご用件がおありですか?」
「ん、まあ。かわいい新入りの訓練を見ておこうと思ってな。」

ただでさえ美形の顔がにやっと笑うとやはりかっこいいと思う。
どちらかというと男性より女性に人気が高そうだなこの人。

「それにしても三分も待たずに最高難易度を二回やってるんですよ?
 リーダーも一言言ってやってくださいませんか?」
「まあ、アズなら大丈夫だろう・・・それとも心配か?」
「医務室に運ぶのが面倒なのでとても心配です。」
「なるほど。正論だ。」

リーダーはまたもやくつくつと笑うと「だが、」と続けた。

「恐らく心配はいらないよ。どちらかというと毎回全力で能力を使う君の方が心配かな?」
「え・・・」
「バグが憎いのはわかるが、肩の力を抜くことをオススメするよ。」

バグが憎い・・・か。

「アレは本物じゃなくあくまで立体映像だ。軽く叩くだけでいい。そういうことだ。」
「そうかもしれませんが・・・」

その時軽い機械音が流れてあわててそっちを見る。

【シュミレーション成功】
【評価:A】
【難易度:SSS】

や、やりやがった・・・
アズは誇るでもなく不満でもなくいつもの無表情ですたすたとこちらに歩いてきた。

「おめでとうアズ、腕を上げたな。」
「・・・。」

くいっと顎を引いて軽く頭を下げるアズ。
昨日からちょっと思ってたんだけど・・・こいつもしかしてマコトさんに弱い?
なんていうか、従順って言うか。
アズはこちらに一瞥もくれずにスタスタ歩くとまたパネルの操作をはじめ・・・って!

「だ・か・ら!!なんで休憩取らずにもう一回やろうとするのかな?!」
「シロ、うるさい。」
「お前の心配してるんですけれども!あと俺はビャッコな!」
「シロでいいって言ってたけど。」
「ぐっ」

た、確かに言いましたけども!
あれは物の弾みと言うかなんというか・・・あー・・・。

「わかったよ、シロでいいからちょっと休憩しろ。」
「ポチ、黙れ。」
「まてまてまて!!ポチっておかしいだろ!!ビャッコだビャッコ!」
「犬じゃん。」
「獣人差別すんな!ビャッコだって言ってるだろ!!あーもう!ちょっと座れお前!!」
「心配ない。ポチを差別してるだけだから。」
「びっくりするくらいどこにも安心する要素がないんですけど!?!?」

だめだこいつ!
ちらりとマコトさんを見るとそっぽを向いて笑いをこらえていた。
ああ!助ける気皆無ですかそうですか!?
俺の視線に気づいたのか、マコトさんは笑いながらも手を振って注意を集める。

「アズ。とりあえず休んだ方がいいのは本当だな。」

アズは少し不満そうな目を向けただけでくいっと顎を引いて了承の意味を示した。
あ。もしかして上の人ってことは理解してるのかな?
全然そういう気にしない奴だと思ってたから意外だけど。
マコトさんはそこでちらりと出口に眼をやり「おや。」と呟いた。
その視線が気になって俺も目で追う。


シュミレーションルームの入り口に少女が立っていた。
とても可憐な少女がやや緊張したような、はにかむような笑みで佇んでいる。
すこしキリッとした目元。長い黒髪はポニーテールにされており、全体的にすっきりとした印象がある。
そして同い年くらいだと思いますけど・・・美少女。普通に可憐な少女。
・・・俺としてはもうちょっと目が丸ければばっちりなんだけれども・・・。
いやいやいや!!これでも十分かわいいですけれども!!

「ヘル。こっちにおいで。」

リーダーに誘われて無駄のない動きでさっそうと入ってくる。
洗練された動きにキリッとした表情を乗せていて・・・なんていうか・・・カッコイくてカワイイ?
俺が見とれているうちにリーダーの隣に立つ美少女。

「この子は昨年我が隊に入ったヘルだ。色々隊について教えてもらうといいだろう。」
「はじめまして。ヘルと申します。よろしくお願いします。ビャッコ君、アズ君。」

ふんわりと微笑んだ先輩美少女ヘルの周りに花が見えた!幻覚だけど!
かわいい!かっこいい!先輩!
よくよく考えたら美女リーダーに美少女先輩って・・・かなりいい隊に入っちゃった?俺。

「ヘルは君達と同い年でもある。仲良くやってやれ。」

ニヤリと笑うマコトリーダー。
そして微笑みを浮かべるヘル先輩。
俺はいたたまれない空気に気づいて慌てた。

「は、はじめましてっ!よろしくお願いします!」

あ、声裏返った。
差し出した手ががちがちに硬直している。
ヘル先輩は気にせず手を握り返してくれた・・・いい人だ。
しかしちょっと恥ずかしいのもあって早めに手を引いた。
ちらりと横を見ると、やる気のなさそうな奴一名。
挨拶しろよ・・・!
と、目で訴えるとその思いが届いたのかちらりとこちらを見た。

そして一歩前に出る。
ヘル先輩はそれに気づいて二コリと笑いながら手を出す。
そしてアズも手を伸ばした。

ヘル先輩の胸に。

 あ い つ 何 ヤ ッ テ マ ス カ ー ー !?!?!?

揉むというよりぱふっという軽めに触った感じだった。
うん。下心をまったく感じさせないような。
そして何度かぱふぱふと軽く叩いて・・・首をかしげた。

「女?」

・・・・・・・・・って冷静に実況解説してる場合じゃなかったあああああ!!!
俺は慌ててアズの手を引き離すためにがっしり掴んでヘル先輩から引き剥がす。
ヘル先輩は手を差し出した姿勢のまま硬直して耳まで真っ赤になっている。
あああああああ・・・・!!!何なんだコイツ!!

「何なんだよ何してんの!意味わからないんだけどアズ!!!」
「胸なかったから男かと思った。」
「その胸=女みたいな方程式なんだよ!?意味わからん!!」
「何。ロリコン?」
「ああああああああ!!そういうことじゃなくてだな!!」

確かにヘル先輩はスレンダーですけど!控えめですけど!
マコトさんに比べたら・・・いや、むしろマコトさんがありすぎなだけで・・・。

ヘル先輩は胸を押さえて真っ赤になってへたりこんでいた。
そして「ないわけじゃないですもん・・・」とつぶやきながら涙ぐんでいる。

「え、ないじゃん。」
「アアアアアアアァァァズウウウウウゥゥゥゥ!!!!」

オブラートに!オブラートに包んであげろよ!!このムッツリ!!
いや、これは逆にオープン?ど、どっちもだめだ!!
マコトリーダーはふぅとため息をついて手招きをする。
テコテコと素直に従ったアズにマコトさんはぐっと引き寄せた。

「いいか、アズ。女性の胸をいきなり触るのはなしだ。」
「何で?」
「何でもだ。それに胸がないとかそういうことは言っちゃいけない。わかるな?」
「?」
「とにかく、そうわかりやすく言わずにせめて『控えめ』とかそういう単語を使え。わかるな?」
「ん。」
「さ、謝って来い。」

リーダー!!言ってることは正しいですけどヘル先輩に聞こえてます!
地味にざっくざっくダメージ行ってます!!
それでもアズはリーダーに逆らう気はないのか、微妙な表情でくいっと頭を下げた。

そしてヘル先輩に近づいて手を差し出す。
ヘル先輩は未だに赤くてえぐえぐ涙ぐんでいたが、その手を取って立ち上がった。
俺はため息をつくと、またよからぬことをしないようアズに近づいて警戒する。
胸触ろうとしたら今度こそ止めてやる!!

「ごめん。まな板。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
だめだああああああ!!!こいつダメな野郎すぎるうううう!!!
ヘル先輩はまたかちりと固まった後、更に顔を赤くした後叫んだ。

「ないわけじゃないです!!!」

茹でたこのような先輩の勢いあふれる平手がアズに迫り・・・
俺は襟首をつかまれ、前に押し出されたことに気づいた。

耳が破裂するような強烈な音と、頬に走る熱い痛み・・・。
あ、俺・・・盾にされたんだ・・・

そう理解すると同時に脳を揺らされたせいか意識が遠のく。

俺  何も  して  ないの  に ・・・

なんとなく、消え行く意識の前に俺の目からあふれた水滴が飛び散った気がした。


「何泣いてんの?」
「すごく・・・痛いです・・・」


つづく

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