<第七章  神々の狂想曲> 「第三話 復讐せし存在」



白い部屋の中、そいつはいた。
ずっと人生を一緒に歩んできた存在。
そして、自分を殺した存在。
その人物―――双影 秋は微笑んでいた。

「意外に元気そうじゃねぇか。」

「お陰さまで。復活するのに時間がかかったがな。」

「ま、別に謝らねぇけどな。」

飄々としたいつものような態度にアルギズは苦笑した。
自分の存在の破片が見た姿は少し後悔していたが、吹っ切れたらしい。

「俺はお前に用がないが・・・何か用か?」

「俺様は用があるんだよ。ちょっくら頼まれてなぁ。」

ニヤリと口端を吊り上げて、
秋は背中に持っていた自分の体長ほどはあろうかという剣を構えた。
重たそうな剣だなと、妙に感心してしまう。

「俺様は過去に帰るためにちょっとオメェを消さなきゃなんねぇんだよ。」

「俺はまったく用はないが・・・素直に通してくれないのか?」

「あーん?びびったのかよ?」

「というより、武器を持ってない。」

「あー。確かに丸腰の奴と戦ってもなぁ。」

秋がひどく残念そうにこちらを見た。
そしてじろじろ見渡した後、

「まあ、頑張れ。」


そういって、こちらに踏み込んできた。
舌打ちして右に転がって刃を避けると、体勢を整えて秋の腕を蹴りつける。
しかし、その行動を予想していたのか、秋はの力を受け流して再度きりつけてきた。
急いで後ろの跳び下がるが、その間合いを詰めて秋が剣を振り下ろす。
間一髪で秋の懐を抜ける形で避けると、攻撃範囲から飛びのいた。

これほどの重さを持つ剣を軽々振り回し、本人は息がまったく切れていない。
さすが、戦乱を生き抜いた傭兵といったところだった。

かといって、このまま戦ってもまったく勝ち目はない。
ちらりと素早く部屋を見渡すが、部屋の扉はなかった。
先ほど入ってきた扉すら消えうせている。

「ほら、さっさと降参しろよ・・・!俺の能力で切り裂けない力はないぜぇっ!!」

横に転がって避ける。
振り下ろした刃は床をえぐり、剣が深々と突き刺さる。
その機に更に間合いを取ろうとするが、秋は剣を手放してアルギズを蹴りつけた。
受身を取ったがすさまじい力で跳ね飛ばされる。

そして床に叩きつけられている間に、秋は剣を床から引き抜いてこちらに向かってきた。
蹴り飛ばされて痛む横腹を押さえて跳んで避ける。

「ははっ結構イテェだろ?ここじゃ『世界』で実体がなくてもちゃぁんと実体も痛覚があるからなぁ!!」

道理で、先ほどの赤の部屋でカップが触れたはずだと気づく。
しかし、それも踏まえるとどう考えてもこちらが不利だ。
恐らく秋はこっちの戦闘パターンを知っている。
そして逃げる場所もない。

アルギズは集中して右手に力を溜める。
気を具現化した刃物を素手で触ること自体危険行為だが、
それ以前に能力自体は何故かずっと使えなくなっている。
しかし、これがなければ勝機はゼロになる。

思いもむなしく右手は空のままだった。
その間に秋に間合いを詰められてしまうが、
それを避けると同時に集中する。

―考えろ

確か、白や青と戦ったとき・・・そして小さい頃の猛獣と戦ったとき・・・
変わりに発動した能力があった。

何故前の気を具現化する能力がなくなったのか。
きっと、なくなったのではない・・・変わったのだろう。
・・・恐らく秋が体内から力を発し続けて能力が変質してしまったからだ。


アルギズはそこまで考えると秋の間合いを逆に一気に詰めた。
秋は近づいてくるとは考えていなかったのか、一瞬目を見開く。


秋の能力は、先ほども言っていたが刃物を使って何もかも切り裂く能力。
それが気を具現化する・・・気で刃物を作り出す能力とまざったらどうなるか。
自分の力で物を作り出すことと、自分の力で物を切断、つまり変化させる能力。

―自分の力で相手を変形させ、新しく作り変える


秋の剣の柄を掴んだ。
そこで一気に力を流し込む。
いつものように数字の羅列のような妙なものが頭に流れ込む。

―そうだ。
―つまり、今の能力は・・・
―力の流し込んだ物を・・・情報を書き換える能力

この数字の羅列が情報ならば、書き換えればいい。
つまり、剣を構成している物を―――分解せよと。




―バキィッ





剣にひびが入り、粉々に砕ける。
集中したせいか、頭がずきずき痛む。
秋は驚愕に目を見開いた。

それを見逃さず勢いをつけて蹴りを叩き込む。
油断していたせいか、簡単に秋の体は吹き飛んだ。
壁にぶつかってむせている秋を見て、がくりと膝を突く。

どうやら、この能力は多大な力が要るらしい。
相手を書き換えるのだから当然といえば当然だが。

秋が壁に手を着いてよろよろと立ち上がってきた。
そしてスラリとナイフを取り出した。
身構え、先ほどのダメージなどないかのように襲い掛かってきた。

一気につめられた間合いを見てアルギズも『剣』を抜いた。
そしてナイフを弾き飛ばす。

アルギズは先ほどの応用で作り出した剣を秋の喉元につきつける。
自分の剣になるように構成した空気は、しっかりと実体を持っていた。
秋は手を上げて降参のポーズを取った。

「やるじゃねぇか。」

そして、歯をむき出しにしてにやりと笑う。
ひとしきり笑った後、笑顔を引っ込めた。

「んじゃ、この『場所』返してやるから殺せ。」

そしてだらりと両腕を自分の体の横にたらす。
無防備になり、本当にその気になってしまったようだ。
アルギズは無言で剣を霧散させた。
それを見て秋は驚愕と呆れがまじった顔をした。
つまりは「おいおい」という顔である。

「だから、俺様殺さねぇと元に戻れねぇんだって・・・オメェ忘れたんじゃねぇだろうな?」

「別に、夢見悪そうだからやめだ。」

「はぁー?」

心底理解できないような顔をして半眼になる秋を、アルギズは苦笑して見た。

「ずっと聞いてたなら・・・前も言っただろ?」

「あ?えーっと?」

「自分が生きたいから、相手を殺すのは極論過ぎる。」

そう言い切ると、秋は間抜けに口を開けたまま固まった。
そして目を泳がせて「あー」だの「うー」だの呟きだした。
その様子に思わず吹き出してしまう。

あれほど自信満々に『生きたい』といってたくせに、間抜けすぎる。
さり気なく後悔していた部分も間抜けだと思う。
きっと、ヨミのあの変身していた姿は恐らく秋自身にそっくりなのだろう。
どれだけ悪い奴に見えるように振舞っていても、秋は悪い奴じゃない。

「偽悪者だよな・・・結構格好悪いぞ。お前。」

秋は「んなっ」とショックを受けたような顔をした後、すごい顔で睨んできた。
そういう表情をしても、あまり怖く感じないのは内面を知ってしまったからだろう。

「お、おおおおま、お前!!馬鹿にしてんじゃねぇぞっ!」

「してないから。落ち着け。」

「嘘つくんじゃねぇっ!!その笑ってる口元に説得力がねえっ!!」

その様子に更に吹き出した。
わなわな震えている秋は「オメェも偽悪者だ!」や「ぜってー後で殺すからなっ!」などと叫んでいたが、
聞こえないフリをした。

そしてひとしきり叫んでぜぇぜぇしている秋に、アルギズは笑いかけた。
いいことを思いついた。

「ところで秋。お前しばらく暇だったか?」

「あぁ?無職なんだから暇っちゃ暇だけどなぁ・・・なんだいきなり。」

「いや、だから俺の誕生日祝うのに来てくれないか?」

「は?・・・・・はあああああああああっ!!??」

「残念ながら俺は友人が少なくてな。人数が集まりそうにないんだよ。」

ある意味、生前にやっとけばよかった友人つくりだが。
今となってはどうしようもない。
しかし、何を思ったのか、秋は優越感に浸ったようなしたり顔で頷いた。

「しゃあねぇなぁ〜・・・別にいいぜ?オメェ確かにつれなかったもんなぁ。」

ニヤニヤという表情をしている。
一応、コールがいるだろう事は伏せておこうと思った。

「じゃあ、決まりだな。場所は知ってるだろ?帰って仕事でも探して待っててくれ。」

「あぁ。ま、オメェがそういうならそうし・・・って、なんか誤魔化されてねぇか?」

ようやく気づいたのか、はたと秋が静止する。
苦笑して手をぱたぱた振ってやる。

「気のせいだ。じゃあ、俺が来た部屋にいる赤にでも頼んできちんと戻れよ。」

「え?あー・・・わーったよ。」

いまいち納得しそうにない顔で秋が唸りながら言う。
いつの間にか、秋の後ろと自分の後ろには扉があった。

秋が歩き出したのでアルギズも歩き出し、すれ違うように部屋の反対同士に行った。
ドアノブに触れた時に、秋がこちらを見て声をかけてきた。

「じゃあ、またな。」

そしてためらいなく行ってしまった。
それを苦笑して見送る。



アルギズはドアを開けた。
きちんと繋ぎ止めてくれている。

エフが、
カノンが、
コールが、
赤が、
秋が、


全ての約束を果たすため、自分をしっかり保って開ける。
きっと大丈夫だ。上手くいく。そう言い聞かせて。



次の部屋も真っ白だった。
その部屋の中央に、緑の少女がいた。













つづく

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