<第六章 それぞれの話> 「第五話 名も無き存在の話」


それはいつの間にか生まれていた。
いつの間にか、存在していた。

それに名前はなかった。
それに存在理由も無かった。
それでも、存在していた。

しばらくすると、ちかちかする光が見えた。
小さな光はたくさん増え、いろんな色を発しだした。

それは『世界』と知った。

綺麗で、美しくて、かわいくて・・・
だからそれらを見るのが大好きだった。
ずっと見ていたいと思った。

だけど、世界は膨らみすぎて消えた。
それぞれがぶつかり合って消えた。

そして全部が消えて、また真っ暗になった。
楽しみが無くなった。
何も無くなった。
自分の存在以外が全て消えた。

『つまらない』

そう思った。
しばらく、ずっとつまらなかった。
何もしなくて、何もしようとも思わなかった。

ある時、目を開いた。
視覚ではない別の目。
それを開くと、先が見えた。
『今』ではない『未来』が見えた。
そうして先に世界がまた出てくるとわかって、
それまで寝ていようと思った。

先を見たらつまらない。
だから、また目を閉じた。



目を覚ました時、またあの光が見えた。
世界がまた出てきた。
嬉しくなって、今度は消えないように世界をそっと移動させた。
大きくなりすぎた世界は潰した。

そうすることによってどんどん世界は増えていった。
だけど、移動させる時間の方が長くて、
自分が楽しむ時間がなくなってしまった。


だから、影を創った。
自分と反対の影を創った。

影は、邪魔な世界を消してくれた。
だけど、影だけじゃ判断できなかった。

だから、管理者を創った。
赤、青、白、緑の四色。

影や自分が世界を見て報告して、
四色にそれぞれの場所を担当させ、判断させた。
そして他の世界を駄目にする世界を、影と自分で消していった。

上手くいくようになった。
また、楽しくなった。

世界の中に入れば、それぞれの光景が広がっていて、楽しかった。
だから、それを・・・その『嬉しい』を誰かと共有したかった。

誰に話そうか。
誰が聞いてくれるだろうか。

考えて、影と四色に感情を与えた。
そうして、話すことが出来るようになった。
四色と影はそれぞれ別々の性格を持つようになった。
そうして、ずっと楽しい日が続いた。
ずっと続けばいいと思っていた。



だけど、影は消えた。



影が調べに行った世界で、消されてしまった。
悲しくて、でもどうすることもできなかった。
だから、今度創った影に感情は与えなかった。

前の影に、感情を与えたから駄目だったのかもしれない。
そう思って与えなかった。

だけど、それでは全然楽しくなかった。
感情が無い影の話はつまらない。
感情が無い影は、何も楽しいと思わない。

『つまらない』

そう思った。
だから感情をあげようとしたら、四色に止められた。
どうしてかと聞いてもわからなかった。
こんなにもつまらないのに。
どうしてだろう。

つまらなかった。
何もかも、つまらなかった。
だから、また目を開いた。
楽しいことがあるまで寝ていたかった。

開いた目に見えたのは影が小さな光に交わったこと。
そして、その瞬間影に感情が芽生えたことだった。

感情が。
影に感情が芽生えた。
小さな光・・・一つの魂によって。

もしかしたら、また影と楽しく話せるかもしれない。
また、影と一緒に世界を見れるかもしれない。

ワクワクした。
嬉しかった。
期待に胸を膨らませた。

もうすぐ、影を変えることが出来る小さな光が生まれる。
小さな魂が生まれる。

楽しみで、
嬉しくて、
どうしようもなく嬉しくて。

だから、四色にもこのことを話した。
嬉しいことを共有したかったから。

だけど、四色は怖い顔をした。

恐怖、
動揺、
驚愕。

そういう表情をした。
どうしてなのだろうか。

四色は変化が怖いと言った。
変化するものは、絶対に最後は消えるからだと言った。

そんなの、当たり前のことだ。
世界は大きくなったり小さくなったりして消えていくのだ。
今更何を言っているのかと思った。
別に消えるのは怖くない。
それよりも、つまらない世界が永遠に続く方がもっと嫌だ。

だけど、四色は理解してくれなかった。
嫌だといった。
やめてくれといった。
消えたくない、変わりたくない。

そんな無理なことばかり言う。

わからない。
わからない。
わからない。

けど、きっと。
あの小さな光に会えば、きっと皆の考えも変わる。
影に感情を芽生えさせてくれる。
自分の事だって、変えてくれる。
つまらない世界を変えてくれる。

そう思って待つことにした。
全てを変えてくれる魂が現れることを。

きっと、楽しい世界になる。
きっと・・・




名も無き存在は、期待に胸を膨らませながら世界を見る。
途方も無い時間を世界を見て過ごし、
そしてこれからも過ごしていく。

『楽しみだなぁ』

口から漏れた言葉は、四色とは正反対だった。
自分が変わることを楽しみに、
自分が変えられることを楽しみに、
その存在は、笑みを浮かべた。









つづく

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