<第五章 一縷の希望> 第二話 絶えようとする




妙な音で意識が浮上した。
ガッタンとかギーコギーコというような音。
そして何故か近くでマジックの開ける音・・・

すばやくそちらにある顔を掴んだ。
むぎゃっという声がする。

重い頭を床から引き剥がして見ると、金髪美形変人がいた。
・・・間違いなく本人である。
どうみてもヨミが化けているようではない。
ちなみに手にはマジックが握られており、顔の近くまで持ってきていた。

「コ、オ、ル・・・・?」

ギリギリギリという音と共に掴んだ手の力を加えると、妙な悲鳴を上げる。

「ぎゃあああ!!何をする!顔がなくなるだろうが!!」

「お前は、何を、していたんだ・・・?」

「HUHAHAHAHA!寝ている奴を見かけたらまずマジックで額に・・・ぬおおお!!痛いぞ!」

どうやらこの一応最小公倍数的な意味で親友である科学者はラクガキしようとしていたらしい。
そこでひとしきり顔を握って憂さを晴らすと、辺りを見渡した。
機械に囲まれた部屋だった。
自分の寝かされていたソファ意外は鉄でできているような印象がある。
このままだとコールの研究所と錯覚してしまいそうだった。

錯覚、というのはつまり研究室ではない決定的な物があったからだ。
部屋の壁の一つに鉄格子がつけられ、そしてその向こうには石造りの城の地下牢が見えたからだった。
つまりここは地下牢であり、何故かコールがいて、牢屋自体改造されていることになる。

「・・・・・・夢か」

再び横になろうとしたが、コールがマジックを構えたのでやめた。

「・・・整理していいか?」

「なんだ!?肉を描かせる気にようや・・・うおお!!リモコンを投げるな!!」

「・・・俺は、つかまって牢屋に入れられたんだな?」

「うむ。察しがいいな。」

「・・・で、そこにお前も何故か捕まって同じ牢屋に入れられたんだな?」

「うむ。そういうことだな。」

「・・・で、お前が研究室に改造したと。」

「HUHAHAHAHA!わかっているではないか!!」

「ああ。」

アルギズは考えた。
なるほど。整理すれば簡単なことだった。
コールが何故かいて、何故か牢屋を改造しただけのことだ。
ただ、コールがいて・・・

「わかるわけないだろうが!!」

手短にあったTVのリモコンらしきものを投げつける。
ゴインという音と共にコールの額にクリーンヒットした。

「何故!?」

「お前がいる時点でわからん!」

手短にあったTVのリモコンらしきものを投げつけた。
しかし今度は避けるコール。

「別に来てもおかしくなかろう!!俺の親父のふるさとに!!」

「初耳だ!!」

手短にあったTVのリモコンらしきものを投げつけた。
両手で挟んで止めるコール。
その後に飛ばしたTVのリモコンらしきものがサングラスにクリーンヒットした。
ばきっという嫌な音と共にサングラスが吹き飛んだ。

「あああああ!!!俺のアルテメナスウェポン!!!」

「・・・何語だ・・・それ以前にリモコン多すぎだ。ここ。」

あたふたとサングラスを拾うコール。
久しぶりに思い切り叫んだお陰で無駄に疲れた。
アルギズは息を整えつつ、ソファの周りに散乱している数十個のリモコンらしきものをどけた。

「・・・まあ、冷静になろうぜブラザー」

「誰がだ。」

「とりあえず、俺はこういうものだ。」

正座し、すいっと名刺を差し出す。
色紙ほどの大きさの名刺を受け取った。

「この大きさはさておき・・・『鹿馬カンパニー開発部門取締役社長』って違うだろ。」

「気にするな!!」

「そこは気にしろよ・・・『山田 伍郎(ヤマダ ゴロウ)』・・・?」

「HUHAHAHAHA!!俺の名前だ!!」

「・・・・・・・・・・・・え?本当にか?」

「ちなみに長男だ!」

「そこは聞いてない。」

確かに長男で伍郎はおかしいだろう。
それ以前になんでこんなあからさまに偽名っぽいのだろうか。
金髪碧眼なのに日本国籍は持っているらしい。

「まあ、名前が嫌でマジックで塗りつぶした
 日本国籍の話は置いておくとして!!」

「ものすごく気になるんだが・・・」

「俺には偉大な父がいた。」

「・・・聞けよ。」

「昔は反発していたが、とても良い普通の父親だった。」

「はぁ。」

コールの父親というのは確かに見てみたい気もする。

「息子に蛇の偉大さと逆立ちの偉大さを教えた・・・偉大な父だった。」

「普通じゃないだろ。」

「とにかく!!その父親は人間だと俺は信じていたわけだ!三歳くらいまではな!!」

「気づくの早いな。」

「しかぁし!!!父親の耳は何故か尖っていたのだ!!!母は普通だったのにな!!」

―・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?

「大きくなるとそうなると信じていたのだ!一歳児まではな!」

「短くなってるぞ・・・いや、それよりもしかして父親って・・・」

耳が尖っている?
そして改めてみるとコールの肌は若干浅黒い。
この特徴は人間と式神のハーフに現れるというものだった。
とすると・・・

「そう!つまり俺は神ということに・・・」

「つまり、お前は天霊と人間のハーフだったのか・・・。
 どうりで式神の存在が信じられたわけだ。」

「ふむ・・・しばらく見ないうちにスルースキルがアップしてるな。アルギズ。」

とりあえず、
わかったことはコールがハーフであり、日本国名は「山田 伍郎」だということ。
しかし・・・

「それがこんなところで捕まったのとどう関係があるんだ・・・?」

それを聞くと、何故かコールは遠い目をした。

「いつの世も、妬みとは恐ろしいものだ。」

「はぁ。」

「確かに、天才はいつの世も疎まれたがるというだろう?」

「はぁ。」

「俺の親父がフィルークという妙な名前だと告げたらこうなったわけだ」

「は・・・・・・・は?」

「ちなみにスペルは・・・」

「ちょっと待て、混乱してきた。」

コールがハーフで日本国籍が山田伍郎。
そして天霊国出身の父の名がフィルーク。
10年前王家から誘拐されたアルファの兄で、生きていたら第一位継承権を持つ。
そして、当然息子にも適用される・・・これがもし同姓同名なら・・・

「ちなみに天霊国での俺の名は『ヴェルコール・F・ソウェル』というそうだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「終わったな。この国。」

「ぬおおお!!失礼な輩だな!!!!」

「大体・・・お前なんで五年前名乗らなかったんだよ。」

「いやな、俺の親父が死ぬ直前・・・」



『伍郎・・・いや、ヴェルコール・・・お前が生まれた時・・・空が虹色に光ったのを私は確かに見た。』
『本当?父さん?』
『ああ・・・お前は確かに大物になる・・・俺が保証する・・・』
『ありがとう・・・父さん・・・俺、頑張るよ』
『・・・なんてな。』
『へ?』
『それよりヴェルコールって言いにく・・・い・・・・
   せめてコールに・・・改   め・・・い・・・ゴフッ』



「・・・で、結局改名したかしてないかわからなかったんだな。これが。」

「・・・はた迷惑な父親だな。」

しかし、どうも今のコールは父親似らしい。

「まあ、つまりは俺はお前の従兄弟だったわけだ。それっぽく大学ノートにも書いてあった。」

大学ノートにか。

「・・・とにかく、お前が俺の従兄弟で第一位継承権を持っていて、
 そのせいで俺の親父のなんかわからんものに引っかかって牢屋に来たわけか。」

「うむ。」

「そして、暇だから改造したのか。」

「そうだな。」

腕を組みながら頷いているコール。
それを見て・・・あまりの日常のような会話に溜息が出た。
疲れと安堵が半々だった。

「・・・なるほど。わかった。」

そうそう、とコールが思い出したようにこちらを指差した。

「お前の状況をなんか牢屋の前に立ってた兵士が教えてくれたぞ。」

「・・・状況?」

「『魂の定着』の話だ」

「ああ」

兵士に扮装していたヨミが伝えてくれたのだろう。
なんとも、いい気まぐれを起こしたものだ。

「簡単に言うと、お前に秋っていう奴がくっついてて
 疲れるから寿命が減るんだな?」

「嫌な言い方をするな。」

腕の鳥肌をさすった。
ふむ、とコールは顎に手を当てた。


「しかし妙だと思わないか?」

コールはいつもの馬鹿な笑いをひっこめるとにやりと笑う。

「妙?」

「ああ。もし『輪廻』が存在するとしたら・・・おかしい奴がいる。」

おかしい存在。
つまり、輪廻に反する存在。
循環に逆らっている存在。
死してなお、この世に存在できるモノ。

「・・・クロム・・・なのか?」

思念だけであるもやもやしたものは存在してもおかしくない。
生きた人間が残した影響が幽霊が存在しても問題はない。
しかしそれらは輪廻が存在すると仮定した場合、残像に過ぎない。
クロムのように思考が成長し、
自分の意思で人に影響を与えることができる存在は確かにおかしい。


「そう。これではっきりしたことがある。」

コールは壁にもたれて腕を組み、そして人差し指を立てた。

「クロムは、本来お前につく予定だったってことだ。」

「・・・?どういう意味だ?」

「クロムは、かつて暗殺者だった。あきらかに浄化しなければ循環にもどれない魂だ。」

「・・・そうなのか。」

「その魂は本来、お前によって浄化される『予定』だった。
 しかし、何故かお前には既に魂がくっついていて定員オーバー。」


故にクロムは循環もできずに漂う存在となったということ。
こじつけのようにも見えるが、筋は通っている。


「さて、これでわかったことがあるな?」

ニヤリとコールは笑った。

「循環にも『介入』できる存在がいるということ、か。」

漠然としていたものが確信へと変わった。
大きな流れに横槍を入れれる存在は、たしかにある。



「まあ、もちろんそんな輩の思い通りにさせる必要はない。」
コールは嬉しそうに笑った。

「原因さえわかればこちらのものだ。お前の体の衰弱を治せばいい。」

「衰弱を・・・?」

「どうやらその魂の定着とやらの死因は『拒絶反応による衰弱死』なのだろう?」

フフンと得意気に笑う。

「それくらいどうとでもなる。後はお前が月一の力の解放さえ怠らなければ・・・」



「生きることが・・・できる・・・?」




突然、希望が見えた。
闇雲にもがいていた途中で、目指すべき道が見えた。

アルギズは深く息を吐き、ソファに深く座った。

「何だ?嬉しくないのか?」

「嬉しいさ・・・だから、なんていえばいいのかわからないんだよ。」

「まだまだお子様だな!HUHAHAHAHA!」

ひゅっと風を切る音がして頭に何かがぶつかった。
軽い石のような物が二つ。
地面に落ちたそれを拾うと、それは三角形のピアスだった。
アルギズがつけているものと差はわからない。

「作っておいた。危険予測機能はもちろん・・・自分の意思で人間形態を維持できる。」

薬、ブレスレットとの次の強化版だ!と言う。

「お前がここに居場所がないなら人間界で作ればいい。お前にはそれができる。
 恋人が恋しいなら連れてくぐらいの頑張りを見せなくてはいかんな!」

顔を上げると、コールは柔らかい笑みを浮かべていた。

「学校にも行けばいい。学業を修了して、そして俺の会社にでもくればいい!」

少し、笑いがこみ上げてきた。

「いや、勘弁してほしい。」

「何を言う!お前が入るまでには社長をのっとる予定だぞ!
 そしてきちんと推薦してお前を入社させてやるからな!きびきび働け!」

「どんな計画だよ・・・」

「HUHAHAHA!未来予想図だな!お前の欲していた普通が手に入るぞ!」

―ああ、わかった。

「ふむ。それで国をのっとるわけだな!HUHAHAHAHA!」

―こういう時に言う言葉

「コール。」

「何だ?」

「ありがとう。」

満足そうに微笑むと、コールは再び馬鹿笑いを始めた。
アルギズはコールにもらったピアスに付け替えると、立ち上がる。




「さあ!さっさとここを出て強行突破と洒落込むべきだな!」

「ああ。」





向かうべき先が見えた。

向かいたい未来が見えた。

後は、それに向かうだけ。










つづく

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