<第四章 出逢う真実> 第四話 明かされる真実




「結局、城は締め切られ・・・無駄骨ってつらいぜ〜」

しばらく城の前で粘っていたが、アルギズの名前を出しても城には入ることができなかった。
ライは辛うじて通してもらえたが、連れということでも駄目だった。

昼間とった宿にてごろごろと伸びをする秋。
どうみてもさっきの緊張感ある真顔とは違う。
むしろ別人に見えた。

「・・・で、フィルークの一子ってのは、お前ではないんだろう?誰なんだ?」

すやすやと寝息を立てているエフを横目で確認しつつ、聞く。
秋はベッドの上でごろごろしているのを止めて勢い良く体勢を立て直した。
そしてにやっと笑う。

「ま、気品がある俺様と間違うのも無理はねーけどな?」

「気品、ね」

「・・・あ?」

とりあえず溜息をついた。
秋は不満そうにこちらを見ていたが、やがて窓の外を見る。

「まぁ、そのうちわかるしいーじゃねーか・・・説明がめんどい。」

「だろうと思ったよ・・・。」

そのやる気のなさはどこから来るのかわからないが。

「じゃあ、もう一つ聞いていいか?」

「いいぜ?」

秋はこちらに向き直り、獰猛な笑みを浮かべた。
どうやらこの後に言う言葉の予想がついているのだろう。

一息ついて、そして聞く。


「お前は誰だ?」


秋は全く表情を変えずに笑っていた。
しばしの沈黙の後、おかしそうに口を開く。

「名前は秋。知ってるだろ?」

「違う。」

―こいつは秋じゃない。少なくとも『俺の知っている秋』じゃない。

今朝に感じた違和感は、確実に積もっていった。
そして、既に今は確信に変わっている。

『魂の定着』で自分の魂に着いたのは恐らく『双影 秋』であり、
最近見る夢は定着している『秋』の記憶。
それなら、

―こいつは誰だ?

「認識の食い違いだな。この存在が秋と名乗るなら、それは秋なんじゃねーか?」

「じゃあ、俺が否定したお前は、誰なんだ?」

「俺様は言葉遊びしてるわけじゃねーぜ?」

「言葉遊びだろ?」

秋はおもしろそうに笑った。
そして言う。

「それなら俺様は『何者でもない』ってことになるな」

そう、そういうことだ。

「じゃあ、俺はお前を何て呼べばいい?」

「おいおい。『何者でもない』のに名前なんてないだろ?」

やっぱりそうだ。
わかった。
わかってしまった。
今朝の会話の意味が。

恐らく、こんなことがありえるのかどうかはともかく、
『こいつ』は自分で自分に名前をつけている。
元の名前なんてものは、ない。
それならば答えは――

「じゃあ俺は『ヨミ』って呼べばいいのか?『ミドガルズオルム』・・・」

しばしの沈黙、
息が聞こえるほどの静寂の後、

「思った以上だなぁ。」

『そいつ』は微笑んだ。
間延びなのに棒読み、それでいて楽しそうな口調。
秋の表情とは全く異なる、微笑み。
『ヨミ』の表情。

精霊しか知っていなかった知識を持っていた存在。

そして、自分の中の秋を知っていた存在。

あえて、そうして自分の前に現れた存在。

自分を試していた存在。

答え合わせのために、名前を付けさせた存在。

『ヨミ』



「お前は、何者なんだ?」

「それは、私が決めることじゃないんじゃないかなぁ?」


疑問で疑問で返される。
どうやら自分で考えろという意味らしい。

少なくとも、ただの人間とは考えられなかった。
全てを知っている。
そういう存在だと、漠然と感じ取ってしまう。
ただの誇大妄想ならいく分か楽だっただろう。

―こいつが流れに『横槍を入れれる存在』?
―いや、いくらなんでも話が飛躍しすぎている・・・だが、

しかし、そこまで考えたところで自分の中で何かがうごめいた気がした。
これ以上情報を与えてはいけないというように。
気づかせてはいけないというように。

なにか自分と違うものが自分の中でふくらむ。
めまいがして頭を抑えた。
思考を邪魔をするような吐き気

―考えろ

自分に言い聞かせる。
邪魔をされていると確信した。
ならば、これは考えなければならないこと。

自分の中の秋に負けてはいけない。

かっと体が熱くなる。
その次の瞬間に激痛が走る。

その痛みは何よりの肯定。

―考えろ

言い聞かせるのに脳が動かない。
しびれるような、靄がかかったように思考がさえぎられる。

―生きなければならない

―殺されるわけにはいかない。


 コ   ロ   ス  ・  ・  ・  


自分の中にある存在の殺気が痛いほど伝わってきた。
今ならわかる。
秋はずっと暴れて、そして殺そうとしていたのだ。

―俺を殺して、約束を守るために
―理由は、俺と同じ。




 生 き て 約 束 を  守 る た め に
 生 キ テ 約 束 ヲ  守 ル タ メ ニ





何故か、痛みがひいていった。
靄も晴れ、思考が戻ってきた。
唐突だったため驚いた。
どうして急に痛みが引いたのかはわからないが、
今は自分の中の殺気を感じ取れなくなっている。
手を叩く音が聞こえた。

「さすがだなぁ」

前方を見るとさっきまで秋の姿をしたヨミのいた位置に金髪の中性的な人物が拍手をしている。
ゆったりとしたローブをまとっているため性別や年齢もよくわからない。
見た目からしてアルギズと同じくらいに見えるが、姿を変える以上頼りにはならない。
長い金髪は腰まであり、前髪も長く、目を完全に隠している。
口元は先ほどと変わらず微笑んでいた。
そこにたっているということは、『ヨミ』なのだろう。

「姿を・・・?」

「んー。形は不安定だからなぁ?」

やはり楽しそうな声色でありながらも棒読みである。
何もかもが作り物のような、それでいてそれでこそ『ヨミ』である。そんな存在。

「・・・じゃあ、さっきの秋の他にも・・・」

「これからが楽しみだぞ〜♪」

会話をさえぎって楽しそうにぴょこりと、なぜかウサギの耳がヨミの頭の上から生えてきた。
こういう風に姿を変えていたのだろう。

「もっと見てみたくなったからなぁ?」

ウサギの耳をひっこめると、楽しそうにこちらをみた。
もちろん目は見えないが、ありありと視線を感じる。
・・・どうやら、疑問系で遠まわしに言う癖でもあるようだ。
つまり、今までどこかで見ていたというわけで・・・

「・・・・・・いや、ちょっと鳥肌がたったんだが・・・」

「失敬な〜。」

棒読みなので怒っているようにも不満を持っているようにも聞こえなかった。
むしろ、ないのかもしれない。
見ていると、負の感情自体ないのではと錯覚してしまう。
しかし、問題は次の発言だった。

「恋する乙女に向かって〜。」

アルギズはしばらく硬直し、そして見た。
花子以来のリアクションである。

「・・・おと・・・め?」

先ほどまで低い声のどうみても男の秋だったヨミは、どうやら女らしい。
ヨミは首をかしげ、再び「失敬な〜。」と言う。

「いや、でも秋にまねて変形してたのは・・・男だったからじゃなかったのか?」

「細かいなぁ。」

つまりは、そういう概念すらないということ。
その後の「ベースだぞー」という言葉から察するに、ベースは女にあたるらしいということ。
そこまで理解して、なんとなく、必死になって手に入れた情報にめまいがした。
気が抜けたという方が正しい。
ある意味、この騒ぎで起きないエフをうらやましく思った。

目の端で見ていると、みるみるうちにヨミは秋になった。

「んじゃぁな〜」

これもすべて演技なのだろうとじとりと見ていると、
まったく気にもせずにベッドに入って寝てしまう。

これでよかったのだろうかとしばし考え、アルギズは頭を抱える。
なんとなく、言わなければよかった気がしたからだ。
















「ああ。見つけた。」

自分の『敵』を見つけ、
白い少年は獰猛な笑みを浮かべた。

今日はてこずらせてもらった。
何故か襲い掛かろうとしても察知できないようになる。

よくわからないが、何かに邪魔をされているようだ。
しかし、今度こそは。

少年は歩みだした。












つづく


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