<第四章 出逢う真実> 第二話 浮き上がる真実





「オメェ・・・誰かにたまに誰かに無理やり人生を操作されてると思ったこと、ねぇか?」





パチンという音がして、ふっと辺りが暗くなった。
世界が揺れる。
いや、視界が揺れているのだろうか?






いや、揺れていたのは自分の体だった。
一瞬の白昼夢。
秋に聞かれたとたんに聞こえた声。
「おいおい。しっかりしろよ?さっさと行くぜ。国王に取り次いでもらうからな。」

我に返るとエフが心配そうに覗き込んでいた。
「あ、ああ。悪い。」
「アルギズ?」
「行こう。」
振り払って歩き出す。
最近こんなことばかりだった。
夢のようなふわふわしたとらえどころのない感覚。
しかし、夢なら、もっと苦しくないだろうに。

『夢は夢だぜ?』

そう聞こえた気がしたが、アルギズは振り返らなかった。










「影はもうすぐ手遅れになる」

呟いたのは真っ白な少年。
誰にも聞こえないその言葉はかぜに消える。
その視線の先には少年がいる。
『全ての元凶』ともいえる『災い』

消さなければならない。
救わなければならない。

その想いは徐々に白を追い詰めていった。
自分でも気づかないほどに。
何故これほどまでに追い詰められているのかも気づかなかった。
先ほどの緑の手のぬくもりがまだ肩に残っている気がした。

自分がやらねば誰がやる。

そう言い聞かせて前に進む。
異常なほど崖に追いやられていく精神。
そんなことにも気づかず。

『そうさせられている』こともにも気づかない。

白い少年は狂気や怯えに満ちた目で、やはり歩き出した。










「いい加減にしろ」

げんなりしたアルギズが呟いた。
しかし、そのことばが当の本人に届く気配はない。
ようやく宿屋から出て大通りに出たのにもかかわらず一向に前に進めない。
そんな状況がさきほどから数十分続いている。
エフはまた眠りこけているし、もともとあてにはしていないが誰も頼れる人物がいない。
そういう状況に陥ったのは全部どう考えてもさっき自分と同じ考えを言った青年だ。

さきほどのシリアスな雰囲気はどこへ行ったのやら、秋はしまりのない顔だった。

目の前にはそこそこ肉付きのよい女性。
美人といっても差し支えないだろう。
とにかくその女性の前でいきなり妙な笑顔で

「なぁ彼女。お茶しねぇ?」

と1世代前のセリフを吐いているのだ。
断られてもこの男、粘る。
あれやこれやと次々と歯の浮くようなセリフを吐きつつ
女性を徐々にその気にさせていくのだが、待たされているこちらの身にもなって欲しい。
放っておいていく手もあったのだが、
それだとフィルークの子どもの情報がわからずじまいである。

「ほ〜ら〜君のことが大好きなのさ〜大好きなのさ〜」

しかも訳のわからない歌まで歌いだした。
・・・さて、どうしたものか。
アルギズは微妙に眉根にしわを寄せた。
エフはいつものごとく背中ですやすやと眠っている。
それにしてもよく寝るものだと思うが、それがこどもなのだというと納得できるといえばできる。
と、現実逃避してみてもやはり秋は女性をさそっているわけで・・・


いや、いまはたかれてフラれた。


まあ、どう考えても下心丸出しのそれでは無理だろうと思う。
ちょっと呆れつつ考えていると、アルギズは見覚えのあるシルエットを見つけた。
市場にて買い物をしている小柄の少女。
黒髪をおかっぱにした・・・

「おーい。そこの彼女!」
秋はにやにやしながらその少女に寄っていき。
「はい?」
まだあどけない少女がにこりと笑いながらこちらを向いて。

「お!かわいいね〜・・・!よかったら一緒に・・・ヘブシッ」

最後まで言う前に殴られた。
その少女を守ろうとしたのか、黒髪を短く切った少年が秋と少女の間に立ちはだかった。
どうやら渾身の一撃をくらわせたようだ。

―俺ではないけどな。

アルギズはなんとなく溜息をついた。
殴ろうと思ったのはこのさい内緒にしておこう。

「おめぇ!人の・・・えーっと・・・カノ・・・いや、違うな・・・とにかく!大切な子になにしてんだよ!」

どもりながらも勇猛果敢に言っている。
・・・この少年は。

「あ?んだよ?こいつオメエのカノジョなわけ?」

秋は殴られた頬をさすりながらどすの聞いた声で言った。
ものすごく不機嫌である。

「え?・・・あーいや、まだ違うけど・・・だな。その。」

「だったらカンケーねーだろ?」

「だからまだっつてんだろ!!」

・・・・・・。
なんだかなぁ、とアルギズは半眼になって遠巻きに見守る。
巻き込まれたくない。めんどうだから。

「こういうもんはな、早いもん勝ちだっつの。」

「何言ってんだ!!こういうのは意思尊重だ!!!」

「あ。アルギズ。」

今までおろおろしていた少女がこちらを見て、ぱっと顔を輝かせる。
見つかった。
見つかってしまった。別にいいとは思ったが。

「・・・久しぶり。カノン。」

「うん!久しぶり!」

自分の故郷なのだからカノンが市場にいても確かに不思議はない。
農民出身であるカノン「は」・・・だが、

「・・・で、なんでライが?」

第二位・・・いや第三位継承者のライが市民の市場にいるのは明らかに不自然である。
中身はそんなに変わっていないであろう馬鹿な従兄弟をみてアルギズは思った。

「あのねっ!今日一緒にお買い物しにきたの!・・・あ!エフ君も久しぶりー!」

「むぅ〜・・・」
背中にいたエフが身をよじっている。
まだ眠いのだろうか。
それにしてもいつも元気なカノンである。

・・・と、何故か今まで石化していたライと秋が同時に叫ぶ

「なんでじゃああああああああああああ!!」

・・・・。

「なんでお前ばっかいい思いしてるんだ!!アルギズ!!」
「俺様ならともかくそいつに花なんか飛ばすなよ!!」
「って!!お前その背中のそいつは子供かこら!?ついにか!?」
「やっぱ世の中おかしいっての!!なんでこいつの方がいいんだよ!!」
「つーかいつ帰ってきたんだよ!!??まさかまたカノンちゃんをたぶらかすために・・・」
「おい!!きいてんのか!?!?」

一気にまくし立てられ、アルギズは耳に手をあてつつやり過ごした。
実はライと秋は気が合うのかもしれない。
ある意味両方バカだし。

「落ち着け。」

「落ち着いてられるかああああああああああああ!!!」

同時に叫んだ二人。
訂正。二人とも正真正銘バカだ。




その後この騒ぐ二人を通りからはずれまでひきずり、
事情を説明するのに半時間かかってしまった。
もちろん自分がここにいる理由の大半は伏せていた。
まあ、普通にすれば10分で終わった話なのだが・・・

「ふぅ〜ん。まぁ、別におじさんに会うのはいいけどよ・・・今は無理だと思うぜ?」

秋の事情を説明し終わった後にライが言う。
なんとなく、不満そうな顔なのは何故なんだろうとアルギズは思ったが気にしないことにした。

「は?会えねーってことかよ?」

秋がものすごく嫌そうな顔をしていう。
まあ、ここまできて駄目だといわれたら怒るのはしょうがないだろう。

「あー・・・うん。」

ライは頭をかきながら言いにくそうにこちらやカノン、エフを見比べ、最後に秋を見る。
どうやら一般人・・・それも人間に話していいかどうか迷っているらしい。

「カノンは口が堅いし、エフはずっと一緒にいればいいし・・・こいつも大丈夫だろう」

少しだけ秋が目を細めたが、一瞬で元に戻った。
あーとかうーとか唸っていたライは決心したように口を開く。

「なんか・・・最近おじさんおかしいんだよな・・・変な青い参謀の話ばっかり聞くし・・・
 うわ言ばっかり言うし・・・誰でもすぐ疑ったり、おばさんが起きたとかいったり・・・」

―青い参謀?

脳裏にふと「白」と名乗った少年がよぎる。
仲間、なのだろうか。
いや、その前に・・・

「・・・あいつが・・・起きるのか?」

自分でも予想以上に声が低くなってしまったと思った。
ライは思わずびくりと反応し、カノンは複雑そうな顔をしている。
エフもうーと唸った。
秋は逆ににたりと笑った。

「へー。王妃のことを『アイツ』呼ばわりするとはなぁ?母親なんだろ?」

「そうだな。母親だ。・・・自分の息子を殺そうとした、な。」

何の感情も込めずに言い切る。
もう慣れた。
疑惑の目で見られることも、信じてもらえないことも。
そして、

―信じたモノに、裏切られるのも。


「おばさんは・・・えっと、病気だったんだから仕方ないって。」
ライがめずらしくはぐらかすように笑った。
気を使ってくれたのだろう。

「別に今はなんとも思ってない・・・それより、今は面会を謝絶してるってことでいいのか?」

「一部には会ってるけどな・・・一応行ってみればいいんじゃないか?」

ビシッと城の方を指差してにやっと笑う。
ある意味、この明るさに救われている気が・・・

「じゃ!俺とカノンちゃんは引き続きデー・・・ゴバハッ!!」

しなかった。

「痛い!痛い!アルギズ!!なんだそのかわいそうな息子を見る目はぎゃああああああ!!!」

気づいていないとはいえ、いや、気づいていないからこそ・・・
こいつには人一倍注意が必要なのだろう。
カノンとアルギズが恋人同士だということに今だに気づいていない従兄弟Rの断末魔が響く中、
カノンとエフはおろおろしながら、秋はそっとカノンの手を握ろうとしていたらしい。

そんなこんながあり、秋、カノン、エフ、そして若干ボロボロになったライと共に、
アルギズは城門まで歩くこととにした。

その間、カノンに手を出そうとするライと秋の手をはたくのに全精神をつぎ込んでしまい、
気分は晴れたがまったく感謝する気になれない時間となってしまった。












つづく


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