<第一章 発端>「第五話 新たな登場人物」


少年がいる。
十歳前後の小さい少年。

―タスケテ・・・!

少年がいる。
手には血まみれの剣を握っている。

―タスケテ・・・!

少年がいる。その足元に血まみれの女性が倒れている。

―タスケテ・・・!

少年がいる。それは赤茶色の髪の少年。

―タスケテ!!

少年がいる。その少年は・・・―――




「俺だ・・・」
アルギズは目を開き、冷静につぶやいた。
太陽はまだ昇っていなかった。
アルギズは低血圧ではない。
だから機嫌が悪くもなく起きることができる。
だが、ごく稀に、夢を見たときだけ機嫌がすこぶる悪い。
つまりはそういう朝だった。
起きた時ベッドの上で何をするでもなく、考えるのでもなくぼーっとしている。
まだ夢の中をさまよっているようなうつろな目だった。
思考がうまく起動していないのか、いちいち動作が遅い。

「・・・あほだな」

唐突に誰に対するかわからない文句を言い、頭をふった。
そこから動きが機敏になる。
パソコンを起動させて部屋の書類を整理する。
シュレッターにかけてゴミ袋に詰める。
何日ぶりかの掃除だった。
下の事務室はよくするが、私室は手付かずなのだ。
メールが一通も着ていないことを確認して再度掃除に励む。
そこで書類の下から賞味期限がとっくに切れているまんじゅうを発見した。
顔をしかめててきとうに机にほっておく。
しばらく掃除して一向に綺麗にならない部屋を見渡し、掃除を放棄するアルギズ。

「寝るか」

つぶやいて横になる。
寝られるときに寝ないと後々体調を崩しそうだ。
勢いよくベッドに倒れる。
ボフッという音と共にほこりが舞い、むせ返った。
無視して他ごとを考えているとすぐに眠気がやってくる。
やっぱり疲れていたのか。 そう自覚すると共に意識が闇の中に落ちていった。








―ドン、ドン、ドン

規則的な音が聞こえる。

―ドン、ドン、ドン

木の扉を叩くような音だ。
いや、実際叩いているのだろう。
アルギズは意識を覚醒させた。
時計を見るとさっきから十分ほどしか進んでいなかった。

―ドン、ドン、ドン

依頼だろうか、だとしたらちゃんと迎えないと。
そんなことを考えながらむくりと起き上がり、
「アルギズ!起きろ!!」
というコールの声でまたベッドに倒れこんだ。 無視しよう。
「おい!アルギズ〜!!!」
近所迷惑だな。
他人事のように考えるアルギズ。
だがどんどん扉の音は大きくなっている。
鍵がついているため進入できないのだろうが、
家自体にはどうやって入ったのかは謎だ。
コールのことだからとてつもない理論で入ったのだろうと納得し、また寝ようとする。
「おいこら!強行突破するぞ!」
すでに扉はみしみしと音を立てている。
強行突破直前といったところだろう。

「なんの用だ。コール。」
扉を開けてやると行き場を失った拳が大きく空振りし、派手な音を立てて転んだ。
見慣れた金髪美形変人の親友だ。
もちろんこんな明け方に来たんだ。
よほどの理由があってこそだろう。
なければ残念ながら右ストレートラッシュが決まることだろうな。
アルギズはそう考え、
「いや、実はな・・・」
右ストレートを鮮やかに決めた。
「まだ何もいってないだろおおおぉぉぉ!!!!」
半泣きでコールがすがりつく。 アルギズは悪びれた様子もなく、
「すまん。条件反射だ。」
と言った。それにコールは納得したように。
「ああ。お前って出会い頭に殴る趣味が・・・グハッ」
今度は蹴りが決まった。
「殴るぞ?」
「せめて殴る前に言ってくれ・・・」
「殴ってない。蹴っただけだ。」
「暴力反対〜・・・」
弱弱しく言うコールに再度蹴りを入れる。
「で?」
「まあまあ・・・とりあえずお邪魔するぞ」
「もうしてるだろ」
「まあ座れよ」
そういいつつどっかと床に座るコール。
「ここは俺の家だ」
「親の金なんだろ?」
「俺の金だ。稼いだ。」
ちなみにローンは払い終わった。
「まあ、まんじゅうでも食べて・・・」
「だから俺の家だって・・・」
賞味期限切れのまんじゅうをおいしそうにほおばるコールを見ると、
アルギズはあきれてため息をついた。
「だからなんの用だよ」
コールと少し距離を置いて座ると、半眼で睨んだまま聞いた。

「今日は相談に来た」
「めずらしいな。」
「そう。めずらしい。だから預かってくれ。」
真顔のまま言うコール。
「・・・何を?」
当然だがアルギズは聞き返した。
コールはそのまま賞味期限切れまんじゅうを完食すると、
「うまい。レモン味だな。どうしたアルギズ?俺が賞味期限切れもの食べたような顔して」
実際その通りなのだがアルギズは黙って先を促した。
「ああ。そうそう。実は捨てられていたものを拾ったんだ。」
「ということは犬か猫・・・だな?」
「まあ、そういう感じだ。それで俺がここに引っ越すまで預かってほしい」
「・・・頼むから1つのセリフにツッコミ所をたくさんいれないでくれ。」
「お得だろ?」
ため息をつくアルギズ。
ちなみにコールの勤務している会社の寮はペット禁止である。
といいつつ以前巨大蛇を養成していた気もするが。
「まず、俺が引っ越すまでとはどういうことだ?」
「文字通り。研究所ごとやってこようかと。・・・花子も一緒だ!」
真顔のままさらりといい、最後の言葉はやや嬉しそうに言った。
花子のついてくる理由はなんとなくわかる。
ここにはたまにクロムも出入りしているから狙いやすいのだろう。
「いまはそんなことどうでもいいだろ!」
よくない。 アルギズは思ったがヒステリックにわめくコールを見て反論をあきらめた。
その代わり、じたばた転げまわって駄々をこねているコールの脳天に拳を振り下ろした。
鈍い音と共にコールが悶絶する。
しばらくの沈黙の後「にゅ」という効果音と共にコールは復活した。
「で、預かってくれるのか?くれないのか!?」
「別に問題はないが・・・」
しぶしぶといった感じでうなずくアルギズ。

さすがに蛇のようなものは勘弁してほしい。 毒をもっているのもだ。
でもそんなものは路上に捨てはしないだろう。
「おお!よかった!花子には断固拒否されてな。」
そういいつつやけに大きいダンボールをひきずってきた。
大きさは子供一人ぐらいなら余裕では入れそうな・・・ そしてBGMを流しながら開く。
「紹介しよう!名前はビック・・・」
「戻してきなさい。」
瞬時にアルギズが言う。
「名前ぐらいきけよおおおおぉぉぉぉ!!」
奇声を発しながら殴りかかってくるコールを蹴飛ばして黙らせる。

ダンボールの中には子供が一人入っていた。
銀髪碧眼で年は十歳より下だろう。
性別は・・・女、いや、男にも見える。
人間の子供というのはわかりにくい。
しかし、ダンボールの中にいたわりには怖がっていなかった。
状況がわかっていないのか、きょとんとしている。
アルギズと目が合うと嬉しそうに笑った。
やっぱり状況がわかっていないらしい。
日本人ではないのだろか・・・だったらことばがわからないのだな。
アルギズはそう思いつつ、
「さっさと返して来い。」
と言った。コールはまた「にゅ」と復活する。
「えー・・・」
「『えー』じゃない。この人攫いが。」
「細かいことは気にするな!こいつ人じゃないし!」
コールは何故か怒鳴る。
「気にしろ。ということは天霊とか式神か?そうは見えないが」
「無論違う。」
「ならラグズ一族か?容姿が一致している」
ラグズ一族は絶滅寸前の一族だ。現在は六人。
クロムも一族の一人だが幽霊なので換算されていない。
この一族は銀髪碧眼、瞳孔が蛇のように縦長と言う特徴がある。
もちろん異例もあるが。
「似てるけどこいつの瞳孔は丸いだろ?それくらい分かれよな!」
ふははははと笑いながら言うコール。
「じゃあ人間だろ。他にいない。」
「浅はかだな。うん。」
アルギズは自分の中でわずかにカチンという音が聞こえた気がした。
「戻して来い。」
「ちゃんと世話するって行ってんだろおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
「そういう問題じゃねぇ!!!」

ちなみに当の本人は訳がわからず途方にくれていた。
結局三時間にもわたる口論の結果。
捜索願などがないかは調べてもいいが警察には連れて行かないほうがいいとのことだ。
子供はことばがわからないらしく、しゃべらなかった。
アルギズがあらゆる言語で話しかけても無駄だった。
そういうことでお世話になることになった子供の名は、

『ビックリマン20号』

名付け親はコールである。
このときから、想像を絶する大きさのものが動き出していたのだが、
それをこのとき察知していたのは誰もいなかった。







続く

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