<第一章 発端>「第三話 対面」


まったくつまらないことになったな。

アルギズは携帯していたスタンロッドで襲ってきた敵をなぎ払いつつ思った。
この地下五階の集団はアルギズにとってまったく手ごたえがなかった。
もちろん敵もナイフや斧などの危険な凶器を持っていたが、
飛び道具はない上に使っている人たちがまったくの素人同然だ。

単に喧嘩慣れしていると言う感じだろうか。

暗殺集団とは見込み違いだったのかもしれない。
数で攻めてくるあたりで不良かごろつきか何かを拾ってきたのだろう。
もしくは暗殺集団でもまったく成果の挙げられない集団、とかだな。
自分の解釈に妙に納得してうなずくと廊下方面の敵を重点的に攻撃した。
脱出できるかわからないがとにかく戻ろうと考えたのだ。
敵はあっさり二十人ほど気絶させた人物に多少なりとも恐怖を覚えたらしい。
取り乱して一撃ごとに叫ぶ。

そうなるとアルギズには隙だらけで倒しやすかった。

たいしたことないな。

あきれて五十人目を気絶させたところで
アルギズは踏み込んで周りを囲んでいた五人を遠くになぎ払い、
イライラとした声を上げた。

「これ以上俺はつまらない戦いをするつもりはない、
これ以上襲い掛かってくるなら殺す。嫌ならさっさと通せ。」

もちろん演技だ。スタンロッドで死ぬまで殴るなんて面倒なことが出来るわけがない。
だが恐怖が伝染していた相手側にはそのことすら気づかなかったらしい。
恐る恐る下がって道をあける。
ふうと、アルギズはため息をついてくるりと背を向けたその時。
殺気を感じて飛びのく。

―ターン

鋭い音がしてさっきアルギズがいた場所の地面がえぐれた。
拳銃か。
そんなものを持ってたやつがいたとは。
アルギズは舌打ちして渋い顔をした。そしてその発砲した主を見る。
背の高い青年だった。 年は二十代半ばで無駄な筋肉がないのか、ひょろりとした印象をうける。
しかし片手で銃を撃ったところを見るとかなりの腕力だろう。

「にーちゃん帰る時間にしては早いだろう?」
長い黒髪を後ろでポニーテールにしている。ハンサムというか男前の顔だ。
しかしその顔に似合わず男性にしては高い声だった。
「勝負するのか?殺すぞ」
「お互い様だな。一対一で倒してやるよ。」
にっと歯を見せて笑う青年。余裕の表情だ。
「俺に勝ったら上に返してやるよ」
周りが動揺する。
「それはいい景品だ」
アルギズもにやりと笑い返す。
「はっ。終わったあともそう言えるかな?」
銃を二丁構える青年。
「俺の名はディーア。ま、コードネームだがな!」
「ほう・・・じゃあ、お前のせいだな。礼は腐るほどやってやらないとな・・・」
何か恨みがましくつぶやいているアルギズを見てやれやれと肩をすくめる。
「おいおい。名乗れよ。」
「俺の名はアルギズ。」
スタンロッドを構える。そして一歩を大きく踏み出し、

「女だからって手加減するなよ!」

というディーアの言葉で派手にずっこけた。
きょとんとするディーア。
「お前、何・・・漫才みたいな・・・」
「いや、俺は人間の可能性の広さに思いをはせていたところだ。で、なんだって?」
「は?・・・いや、女だからって手加減するなよって言ったんだが。」
「誰が女?」
「俺」
「・・・ニューハーフ?」
「正真正銘の女性だ!生物学上もな!!」
「・・・・・・すまん。負けた。だから本当のことを言え」
「お前喧嘩売ってんのか?」
「いや、待て、落ち着くから」
今の状況で落ち着くも何もないのだが、他の人たちは完全に観戦モードに入っている。
アルギズは深呼吸すると。
「そうか。よくはわからないが見た目で人は判断できないな」
「お?お前いい奴だな。そういってくれるのコールぐらいだからな。」
すばやく反応するアルギズ。
「コール?もしかしてあの自称天才科学者の馬鹿か?」
「なんだ、お前知り合いか?」
「知ってるも何もこの状況を作り出したのはあいつだぞ。ついでに親友だ。」
「詳しく話してみろ。」
興味心身に乗り出してくる。
コールの知り合いと知った途端に何故だか態度が軟化したようだ。
「その前にあいつとお前の関係も教えてくれないか?」
「いいぜ。別にたいしたもんじゃないが俺は・・・」
「あの〜・・・ディーアさん・・・」
体格のいいごろつきが一人話しかけた。
妙に下手で、しかもアルギズから距離をとるようにしている。
「なんだよ今話中だろ?空気読めよ・・・」
「い、いえ、そいつ殺さないと」
「うっせぇな。『こいつに脅えて本来戦わなくていい俺しか相手できなかった』とか親父にいうぞ。」
心底うんざりしているような表情でしっしと手を振る。
「いや、それは・・・」
「それにコールの親友だったら手違いだろ?ここくる必要ねぇだろ。多分上でコールが走り回ってるよ」
「しかし、嘘を言っているという可能性も・・・」
ディーアに睨まれてどんどん小さくなっていく手下A。
「ま、それもそうか。」
そう言ってディーアは銃をこちらに向けた。

「よし、答えられなけりゃ撃つぞ。」
「まあ、あいつは謎すぎてわからないこと多いけどな」
「だよな〜・・・まあ、最初に基本で行くか。コールの本名は?」
「知るか」
そんなこと聞いたこともない。
「何!?最初の質問からだと!?信じていたのにアルギズ将軍!  
さらばだ!あいつの本名はだな・・・・あ。俺も知らねぇや」
「・・・。」
「じゃ、次だ。あいつの年齢は?」
「25」
「いや、俺はさばよんでんじゃねぇかと踏んでんだが・・・」
真剣に考えるディーア。
「まあ、奴なら250ぐらいが適切だな」
「あははは言えてるぜ!」
「あの・・・ディーアさん?」
手下Aが複雑な表情をしている。
はっとディーアは真顔に戻る。
「しまった。つい口車に・・・こやつ、なかなかやりおる・・・」
そして何かぶつぶつとつぶやいている。
さすがコールの知り合いといったところだろうか。不気味さは一緒だ。
「で、お前とコールの関係って?」
その質問にディーアはこともなげに答えた。なんかもうどうでもよくなったようだ。
「幼馴染だよ。」
アルギズの中でコールの死刑執行が決まったのと、
受付の若い男性が汗だくになって必死の形相で走りこんできたのはほぼ同時だった。





「なんだ。お前友達いるんじゃねえか」
あっはっはと大声で笑いながらコールの背中をたたいているディーア。
コールは包帯だらけになりながらもふははははと笑い返した。
すでにミイラ状態なのはアルギズに再会したとたん裏路地に引きずり込まれたからだ。
今は10階にあるコールの研究施設に三人ともいた。
「コール。幼馴染なら調べる必要がないだろうが・・・」
「ちょっと実力を試しに・・・ま、アルギズもたいしたことないな」
笑いながらコーヒーをつぐコール。
その言葉にアルギズはふっと微笑む。
怒られると想定していたコールは意外そうな表情をする。
「怒らないんだな」
「ああ。話すことが出来るのは生きている証拠だ。今のうちに存分に味わうがいい」

―ガシャン

コールは真っ青になってアルギズに渡そうとしていたコーヒーを取り落とした。
「気をつけろ、火傷したら危ない。いくらお前でも燃やされたら死ぬんじゃないか?」
目が笑っていない。
結局のところ、アルギズはコールが一応命の恩人であるからして処刑はしなかった。
同時に命を危うくした張本人だということもあったが・・・。
会社を出てコールとアルギズは帰ることにした。
あきらかに仕事してないが、いいのだろうかコール。
ミイラ状態から早くも復活したコールに、アルギズは話しかけた。
「結局あのディーアは何者なんだ?」
「それ調べるんじゃなかったのかよ・・・」
「俺は未熟者だ。コールの作ったIDカードのミスにも気づかなかった。」
「いや、たまたま会社にそいつが来訪してたからばれたんであって・・・」
しどろもどろになりながら目をそらすコール。
「とにかく、だ。ディーアは本名・鹿馬 花子(シカバ ハナコ)といってな。
鹿馬カンパニーの現社長の長女にして殺しを中心としたミッションをこなす特殊部隊隊長だ。」
「それ、言ってもいいのか?」
「だめだな。秘密事項だ。ばれたら殺される。でも・・・ま、お詫びだな」
妙に素直だなと疑り深い目をアルギズはコールに向けた。
「で、本当に俺を試すために調べさせたのか?」
コールは「う〜む。」とうなってから後ろをわずかに振り返った。
めずらしく真顔である。
アルギズもつられてみるが何もない。道だけだ。

「まあ。知りたかったからな。あいつを。」
「幼馴染なのにか?」
「いや、逆にそのせいだな。ずっといるのに全然わかんねーからな。あいつ」
「お前ほどじゃないぞ」
「褒めるなよ」
にやりとコールが笑った。
そしてぼそりとつぶやくように言う。
「それにな、あいつは俺の片想いの相手だからな。」
「・・・・・・・・・は?」
今、さらりととてつもないこといわなかったか?
アルギズは不審そうにコールを観察する。
いつの間にか真顔からいつものコールの表情に戻っていた。
「人間中身だからな!じゃあなアルギズ!」
コールは走って今来た道を引き返し始める。
そういえば会社の寮に住んでいるはずなのになんでついてきたのだろう。
今頃疑問に思うアルギズ。

そしてコールお手製IDカードを取り出した。
さっきのコールのセリフを思い出し、
アルギズは故郷に残してきた自分を好きだといってくれた少女を思い出した。
そういえば彼女はどうしているのだろう・・・
そんな感傷的な気分に浸っているとき、奴は戻ってきた。

「そういやアルギズ。任務失敗したから報酬いらないよな。」

コールの顔面に右ストレートが綺麗に決まった。
弧を描いてどさりと地面に落ち、
痙攣しているコールの額に IDカードを貼り付け、何事もなかったかのように歩き出す。
「ひでぇぜ・・・」
しくしくという泣き声をBGMにして。



続く

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