<第一章 発端>「第二話 任務開始」


「いや〜・・・今の時代はコンピューターだよなぁ」

コールは都会のビルが立ち並ぶ中心部に近い大通りで、
青空を見上げて悟ったようにぽつりとつぶやいた。
いつも通りのサンタクロース帽子にサングラスという変人格好なため、
人が避けて通っているが気にしていない、というか気づいていない。
「そして末端機関から情報を入手する方法もあるという訳だ。」
話しかけられている人物は返事をしない。
無視してもくもくと目的地へと向かって歩き続けている。
コールはそそくさとその後を追い、気にせず話しかけた。
「そのほうが楽だよな。うん。」
「・・・。」
「で、アルギズ。何でそんなレトロな方法使おうとしてるんだ?」
「文句があるなら他当たれ」
アルギズはじろりと睨んだ。レトロな方法とは直接潜入することだ。
「いや、お前ってハッキング出来たよな。とか思ってな。」
「お前の調べろといった奴・・・『ディーア』だったな。
そいつの所属している会社はセキュリティーがありえないぐらい厳しい上に
重要な書類は情報末端に一切インプットさせてないんだよ」
「ほほう。以前失敗したと見える」
「殴ってほしいか?」
「いや、そういう趣味はない」
コールが両手を挙げていう。
「しかしなあ・・・今の世の中情報屋とかいうやつがいること自体おかしいんだよな。うん。平和なのに。」
と、アルギズが突然足を止めた。
「本当にそう思ってんのか?」
「いや。言ってみただけ。」
「だろうな。じゃなきゃお前が会社にいる理由がない。」
アルギズはまた歩き出した。

コールの職業はとある会社の専属科学者、および開発者だ。
何を開発しているか。
簡単に言えば『兵器』だ。
邪魔な民衆を暗殺する兵器、その情報を隠ぺいするための道具。
会社に暗殺組織と情報組織が絡んでいるのは上層部のごくわずかしか知らないことだ。
政府はそれを黙認し、一般の民衆は戦争のない世の中は平和だと思っていることだろう。
暗殺された人は事故か自殺と報道されていた。
世の中は民衆が思っているほど平和でもなんでもない。

「こりゃファンタジーなおまえの故郷のほうが楽しい冒険できそうだな。」
「・・・却下だ」
「む!?まだ何もいってないだろうが!」
「どうせろくなこと考えてないだろうが」
「そんなことは断じてない!!」
「ほう?」
大して興味もなさそうにアルギズは聞き返す。
「不良王子が悪を倒して王国に認められるというシナリオを・・・」
「却下」
「じゃあ不良王子が悪に支配された国を解放するという・・・」
「拒否する」
「じゃあ攫われた姫君を不良王子が救うのは?ちなみに姫役は街角ウォッチングで拾うとか」
「断固拒否だ」
「キー!わがままな子―――!!」
コールは悔しそうに白いハンカチを歯で噛んで引っ張っている。
当然町を行く人々が注目するが、一瞬の後にほぼ全員同時に目をそらした。
かかわらないほうがいいと判断したらしい。
アルギズは他人のふりをしようと決意したが、
道の真ん中で崩れ落ちているコールにズボンのすそを引っ張られて足を止めた。
「な、何が気に入らないんだ!?」
「全部だ」
「不良王子って言ったこと謝るぞ!なんか不良債権と似てるとか思ってないってば!」
「お前・・・何がしたいんだ?」
「だって・・・このままいったら悪の組織を倒して日本を更正する展開になりそうで・・・」
「安心しろ。そんな面倒なことはしないし出来ない。」
「だったら悪の親玉倒すか!?そして・・・本当に平和な世の中へ・・・!」
「ああ。なるほど。そうするとお前リストラだもんな」
「ぬおおおおおお!」
コールが頭を抱えてうめきだした。
その隙にまた歩き出す。
こいつに関わると目的の会社につくのが夕方になる。
ちなみに今はちょうど正午だ。
「ぬおおおおおおおおおおおお・・・」
アルギズは不審に思った。
ずいぶん早足で歩いているのにもかかわらず、声がついてくる。
後ろを振り返るとコールがずいぶん後ろでうずくまっていた。
だが声は聞こえる。
耳を澄ますとずりずりという音も・・・
「コール・・・何してんだよ・・・」
すぐ後ろを見ると芋虫のように這いつつうごめいて近づいてくるコールが見えた。
しかも泣きながら。
どうりですぐ後ろから声が聞こえたと思った。
後ろのほうのコールはよく見ると人形のようだ。
何のためかは不明だが。
「おい。コール。」
アルギズは暗くなってなんかぶつぶつつぶやいているコールに向かって言った。
「俺は今の社会に満足してる。見せかけとはいえ平和は平和だしな。
 これでわかったろ?社会を更正しようなんざ考えてないってな」
コールはそう聞いて一瞬で復活した。
「おお!ようやく龍を倒すことに目覚めたか!!!」
「いや・・・なんでそうなる」
「物語がつまんないだろうが!!!」
「あのな、俺はつまらない日常の繰り返しで満足なんだよ。それが最期まで続くだけだ」
「それもそれで微妙だのお・・・」
「・・・お前の会社つぶすぞ」
「うわああああそれはやめろおおおおおおおお!!!」
アルギズは深くため息をつくと歩き出した。
さっきから視線がものすごく痛い。しかも振り向くとさっと消えるタイプだ。
なんとなく友達を選ぶときは慎重にならなければいけないなと感じたアルギズだった。

「ところでコール」
それから十分ほどして目的地までもうすぐというところでアルギズが話しかけた。
コールはその時何やら変な物をメモ帳に書いていた。
どうやらそれは似顔絵らしいのだが幼稚園児並みなので誰だかわからない。
「なんだ?せっかくディーアの似顔絵描いてやってんのに・・・」
ディーアの似顔絵だったらしい。
「二つほど質問していいか?」
「どーぞ。」
相変わらずメモ帳に熱心に描いているが、人にはまったくぶつからないというのは器用なことだ。
「お前なんでディーアなんてやつ調べてほしいと思ったんだ?」
この質問にコールは体をこわばらせた。
「い、いや?なんとなく・・・?」
声が裏返り、冷や汗をかき始めた。
「なんとなくの好奇心だけで似顔絵をかけるのか?俺でも情報がほとんど入らなかったのに・・・?」
「あー・・・エスパーだよ。」
「どう考えてもお前の知人としか思えねえんだが・・・」
「ふ・・・その推理はあながち間違いじゃないな」
コールは急にかっこつけだした。
そして彼方を見やり、自嘲じみた笑いをする。
なんとなくバックに夕焼けが似合いそうだが残念ながら今太陽はほぼ真上だ。
「つまりどういうことだ?」
「100年まえ・・・世界は戦乱の世の中だった。」
「ほう」
「その時からの因縁なのさ・・・ディーアとはな・・・あの時の決着をつけねば!」
「・・・わかった」
「おお!わかってくれたか!」
「お前は嘘が猛烈に下手だということがな」
そういうと同時にアルギズは裏拳をコールの顔面に容赦なく叩き込んだ。
派手な音と共にコールがこける。
「嘘つくならもっとましな嘘付け。人間の寿命が100年ほどしかないことぐらい俺でも知っている。」
コールはこけた反動を利用し、バック転してアルギズの横に再び追いついた。
アルギズはそれ以上聞いてもはぐらかされるだけだろうと思い、 この質問を打ち切ることにした。
どうせ何らかの関係があれば調べたらわかるだろう。
「二つ目はなんでお前会社いかないんだ?今日は平日だろ。」
「今日は午後からだからな」
「それにしても遅い出勤だな。今から行かないと間に合わないんじゃないか?」
「まあ、このまま行けばもうすぐ・・・」
そこで口をつぐむコール。「しまった」という表情をしている。
ほほう?とアルギズは唇の端をわずかに吊り上げた。
「つまりは目的の会社はお前の会社なのか。どうりでディーアについて詳しいと思った」
コールは口をぱくぱくとしばらく動かしていたが、目の前の真っ青なビルを指差して。
「ああああーーーー!!会社だーー!わーい嬉しいな!楽しいな!!いってきま〜す!」
大げさに痛い演技をして、冷や汗をたらしながら全力疾走で会社に入っていく。

それはもう目にも留まらぬ速さで・・・
アルギズは会社の看板を見てメモと見比べ、ここが目的地であると確認した。
「それにしても・・・この会社はふざけてるのか?コールを雇っただけあるな」
看板には赤いけばけばした字ででかでかと『鹿馬カンパニー本部』と書いてあった。
逆さに読むと社長かオーナーに逆上されそうな名前ではあった。
鹿馬カンパニーとはコンピューターの大手メーカーである。
もちろん表向きは、だが。
裏社会ではかなりの地位を占めている。
中でもこの会社の暗殺部隊は最強と謳われ、実体がまったく知られていない。
人間以外、つまりはアルギズたちの種族のような者もいると天霊の間でも噂されていた。
「まあ、それがどうということはなのだが。」
アルギズはそう考え、頭を振った。
「俺は自分のことで精一杯だからな」
自嘲気味に笑ってアルギズはロビーに足を踏み入れた。
外見もそうだがほぼ水色か青色に統一されている。
フローリングは鏡のように綺麗だ。
普通の会社に見えるようにしているためだけに出入りは基本的自由だった。
目線だけで監視カメラの数を確認する。 死角がほぼない。
怪しい動きをすれば下手をすれば探りを入れていることに気づかれるだろう。
アルギズはなるべく平静を装って受付に行った。
「ご用件はなんでしょう?」
受付嬢が営業スマイルで聞いてきた。
にこやかにこちらも笑顔をかえすアルギズ。
いつものニヤリという笑みでなく爽やかな笑みだ。
余談だが実はこちらが地の笑い方なのだが、
コールに「気持ち悪い」と言われてからそれもそうかと直した。
初対面には受けがいいのでこちらを使っている。
「実はここの専属科学者に頼まれて渡すものを届けに気ました。」
「専属科学者ですか?少々お待ちください」
受付嬢が奥へ引っ込み、代わりに別の若い男性が出てきた。
彼がそう指示していたのだろう。

つまり彼は裏世界を知っている人物と言うことになる。
「身分証明書を提示してください」
アルギズは偽造したIDカードを差し出す。
コールに作ってもらったものだが、多分大丈夫だろう。
そしてそれを機械に通すと、笑顔でIDカードを差し出してきた。
「どうぞ。こちらです。」
その笑顔が引きつっていたことに、アルギズは気づかなかった。
案内されたのは地下だった。
あいつはこんなところで研究しているのだろうかと頭をひねった。
男性はエレベーターの地下五階に来るとエレベーターを止めた。
「この先を真っ直ぐです。では。」
「どうも」
そう言ってそそくさと帰っていった。
地下五階は薄暗かった。
上の明るさが嘘のようだ。
地面は整備されておらず、壁も塗装された後がまったくなく、コンクリートがむき出しだ。
工事中の現場と言った感じだ。
不景気なのか。塗装ぐらいしてやってもいいだろうに・・・とアルギズは考えた。
廊下は一本道で長く続いていた。
しばらく進んだ後、開けたところに出た。
そこもやはり薄暗い。カンテラのような天井に吊るされたランプに虫がたかっている。
こんなところに虫とは・・・哀れに、出られないだろうな。
そこで、アルギズはあることに気づいた。
「・・・不覚」
周りにある大量の殺気を感じて額を押さえる。
気づくべきだった。
受付が自分から荷物を届けに行くと申し出なかったとき。
塗装されてない地下で精密機械が扱えるはずがないと。
それに一本の長い廊下にも意図があったのだと。
「これじゃ後ろから来たら逃げ場がないだろ・・・あいつを信用した俺が馬鹿だった」
ため息をついてIDカードを睨みつける。
そうする間にも殺気が増している気がする。
だが、雑魚だ。
殺気を隠せない暗殺者など・・・それとも必要ないとでも思ったのだろうか。
光の届かない端の暗闇で息を潜めている。
そしてさっき通ってきた廊下のほうからも詰め寄る音が聞こえる。
戦闘は苦手ではないが、どの道勝っても鹿馬に目をつけられたのだから運命は同じだ。


「まあ、それは終わった後に考えるか。」


アルギズはにっと唇の端をつり上げた。



続く
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