<第一章 発端>「第一話 舞い込んだ依頼」


それは日本のどこかの都会の朝だった。
きちんとしまりきらなかったカーテンの隙間から差し込む光。
それを疎ましそうに思いながら書類に埋もれていた少年は目を覚ました。
部屋は大して広くなく、ベッドとデスクワーク用の机で半分が埋まっている。
床には本や大量の紙が無残に散らばっていた。
ほぼ踏み場がない。

いずれも何かの資料のようで、びっしりと細かな字が刻まれている。
少年は顔を上げないまま机の上においてあるノートパソコンの電源を入れた。
そしてそのままがっくりと手を下ろすとそのまま眠ったかのように思えたが、
パソコンの起動音を聞いてゆっくりと顔を上げた。


目つきの悪い少年だった。
年のころは15歳ぐらいだろうか。
少年は赤茶色の四方に伸びたい放題伸びている髪を手で撫で付けると、
キーボードをものすごいスピードでたたき出した。
マウスは使っていないところを見るとかなり使い込んでいるようだ。
そして届いているメールにざっと目を通しながら、 その辺に放置してあった菓子パンを食べだした。
しかし一口食べて顔をしかめると、包装の賞味期限を確認する。
とっくに過ぎていた。 そういえば昨日も食べようとしてやめた気がするな。
などと曖昧なことを思いつつ、少年は一通のメールに目を留めた。
少年の親友からのメールだった。
セキュリティーを通してからメールを開封する。


『件名:起きてるかー?
 送信者:コール
 本文:よう久しぶり!いや〜お前手紙だと無視するだろ?
     しかも携帯迷惑メールに登録してるだろ!
     ひどいぞ〜!友達なのに! いいか!?アルギズ!!
     俺は世紀の大発見をするかもしれないんだぞ!
     いや、する!必ずする!だから俺を無視するのは』


そこで少年・アルギズはメールを読むのをやめるとそれを消去し、
金輪際この送信者からメールが送られてこないように設定した。
「まったく」と彼は頭を抱えた。

コールという親友は天才で何でもできる万能だが、少々ねじが飛んでいる。
天才となんとかは紙一重というがまさにそれだ。
世紀の大発見どころか歴史に残る大発見をしたのにもかかわらず不服らしい。
しかも性格が災いして友達が少ないのか、いつも発明品をアルギズに見せてくるのだ。

「と、いうわけで今回の発明品を見て欲しいんだ」

勢いよく部屋の扉が開いた。
部屋の扉は勢い良すぎて壁にぶつかって跳ね返り、入ってこようとした主に直撃した。
ばたんと入ってきた姿勢で倒れる。
ちなみにアルギズの家は二階建てであり、1階は事務所のようなつくりになっている。
「いやせめて俺の容姿を描写をしてください」
はい。入ってきた男は20代半ばの男性だった。
金髪碧眼。顔は整っていて背も高い。とりあえず美形ではある。

だがその男性をみれば、十人が十人目を逸らしてしまうだろう。
何故なら服装は白衣にサンタクロース帽子、丸いサングラスという組み合わせだからだ。
意味不明だが本人はこれが最新のファッションだと信じて疑っていない。
最先端すぎて誰にも理解されないと悩んでいるそうだ。
彼の名前はコール。もちろん偽名である。
余談だがアルギズも偽名みたいな名前だが本名である。
「で、何がというわけなんだ?」
アルギズが白けた目でコールを見ている。
コールはそんな視線などお構いなしに、
むしろ歓喜の目だとでも思っているかのように拍手を制するしぐさをした。
「で?」
「メール読んだか?」
「ああ。十分の一は」
あれで十分の一だったらしい。

「何いいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

この世が終わったとばかりの絶叫をしてよろよろと倒れるコール。
そして白いハンカチを取り出して目元に当てる。
というか本当に泣いている。
「せっかく・・・せっかくアルギズが読み終わる時間を計算して来たのに!!!」
「無駄な労力だったな」
「いや!そうでもない!これでビックリも増したというわけだ!」
「ああ。不法侵入は驚きだな。警察呼ぶか。」
「おお!アルギズ!これからはメールの最後まで読んでくれるか!ありがたい!」
まったく話がかみ合っていない二人である。
「依頼だったら引き受けるが、無駄なメールを送るな。」
アルギズの仕事は情報屋である。
ハッカーも聞き込みも潜入も報酬しだいで引き受けるという仕事だ。
最近始めたばかりだが、意外と儲かっているらしい。
「そういうなよ!こないだもボンバー君5号が役に立ったろ?」
「ああ。いらないところで大音量発して危うくばれるところだった。」
「そうそう。あとはパトラッシュシリーズとか」
「そうだな。ストレス発散するのに役立った」
「うむ。それは光栄。で、最新シリーズを見て欲しいんだが」
といって、コールはそそくさと持ってきた大き目のかばんを開けた。

革でできていて、緑色である。
いろんな意味で不気味だった。
大きさはトラベルケースの小さいやつと同じぐらいだ。
コールは小さなブロックのようなものをずざーと出し、組み立てだした。
ものすごい勢いで的確に組み立てている。
それを無視してアルギズは適当に床に散らばった書類をかき集めた。
コールに踏まれているのは取れなかったが。
十分ぐらいたった頃にアルギズは痺れを切らしてコールに話しかけた。

「さっきから何やってるんだ」
コールは手を動かすのをやめずに顔だけをアルギズの方向にぐるんと向けた。
今ブロックはなにやらスピーカーのようなものになりつつある。
「これは画期的なシステムでな。持ち運ぶときはこのように小さいが、
 いざとなると組み立てられるというものなんだ」
「いや、それはわかる。何を作ってるんだ?」
「む?演出用のスピーカーだが・・・それが?」
「発明品というのはそれか?」
「いや。これは演出用。発明品は別で作る。」
けろっというコール。 アルギズは頭をおさえ、深呼吸をして心を落ち着かせた。
『俺はとりあえず大人になったはずだ。こんなことで怒ってはいけない。』
そう心の中で三回念じる。
「で、その発明品とやらが完成するまで、何時間かけるつもりだ?」
ゆっくりと問いただす。頭は抑えたままだ。
「うむ。制作に70時間ほど・・・」
「付き合いきれん」
アルギズはまだまだ子供だった。
「何を言う!?発明に時間はつき物!」
「そんな組み立てるのに時間がかかるものをどこで使う!?」
「どこかと聞かれればここだと答えよう!!」
かっこつけるコールを、アルギズは手元に置いてあった
銃刀法違反に引っかかるであろう愛用の刀の柄で殴りつける。

―ゴガンッ

かなり痛いであろう鈍い音。
そしてコールがゆっくりと倒れる。
「ふう。」
アルギズは動じることなくスピーカーになりかけの物体を壊してゴミ袋に入れる。
「ああああああああああああああああああ!!!!!」
がばりとコールが起き上がった。
「何をしている!!!???」
そういいつつ戦闘の構えを取っている。
「燃えないゴミの日は明日だ」
「ああ。なるほど。って違うぞ!!俺はだまされん!」
「いや、ゴミの日に出すのは常識だ」
「ふむ・・・一理あるな」
簡単にだまされるコールだった。
そしてあぐらをかいて座り、アルギズが全部のブロックを袋に詰めたところで、
「って、あああああああ!!!俺の・・・俺の『ブロックちゃん3号』がぁぁ!!」
叫んだ。

しかしそのネーミングもどうかと思う。

「ぬおおおおお!仇!!仇!!」
なんか目に涙をためてつかみかかってくるコールをアルギズはまわし蹴りで吹っ飛ばす。

―ガゴンッ

いやな音をして壁にぶつかり、ずるずると床に落ちた。
しかし、すぐに復活すると、よよよと部屋の隅に座って泣き出した。
「・・・お前と違って俺、人間なんだから手加減してくれよ」
「お前は斬っても焼いても復活するような気がするからな」
アルギズはさらりと言った。 コールが言うようにアルギズは人間ではない。
この世界とは別の空間にある『式神界』の『天霊』という種族である。
本来天霊は耳が尖り、人間の白目に当たる部分が青みがかっている という特徴があるのだが、
今のアルギズはコールの発明品『人間になりた〜い薬』により 外見上は人間となんら変わりはない。

アルギズがあっちでいう通称『人間界』にいるのはやむおえない事情によるところだ。
と、いうとかっこいいがつまるところ家出なだけである。
本来、『天霊』だの『式神』などは人間が知りえるはずがない。
それにもかかわらず何故ちょっと異常だが人間のコールが知っているか。
それはコールが独学で調べ、空間を渡り、確認したからだ。
実は最初に人間界から式神界へわたったのはコールである。
それほどの天才が、何故頭のねじが500本ほど飛んでいるのかは不明である。
そんな二人がであった話はまた今度ということにしよう。
「とにかく。お前がいると話が進まない。」
「た、確かにこれだけ時間がたってもまったく中身のない会話だな」
「お前の選択肢は3つだ。」
「うん?」
「1、 失せる」
アルギズが無表情のまま指を一本立てる
「2、 消える」
二本立てる
「3、 消え失せる」
最後に三本。
「おお!全部最後に「る」がついてる!」
コールは世紀の大発見のような歓声をあげた。
「個人的に3番がお勧めだ」
口の端を吊り上げただけの笑みでアルギズが言う。
ちなみに手には愛刀が。
「何故だ?」 空気の読めない男、その名もコール。
「まず、俺は結構忙しい」
「ほう」
「それで、お前のくだらない冗談に付き合ってられない」
「うむ。だが冗談は言ってないぞ」
「最後に、ここは誰の家だ?」
「アルギズの家、兼 事務所」
「よし、失せろ」
アルギズが抜刀しかけたところでコールはようやくアルギズの表情に気づいたのか、
あわてて腕をふりまわす。

「まて!」
「時は金なり。」
「いや、だからその金の話だ!依頼!情報収集!頼むって!」
アルギズは抜刀しかけた手の力を抜き、眉根にしわを寄せた。
「お前から依頼?」
「そうそう。どうだ?話、進んだだろ?」
満面の笑みでいうコールの脳天に勢いよく柄を振り下ろす。
コールは床に沈んだ。
「余談はいいから答えろよ。話が進まないだろうが。」
半眼で言うアルギズ。
「いや、今のはお前が悪い。」
三秒で復活したコールはその辺にあった賞味期限切れの菓子パンをほおばると、
どっかと偉そうに座った。

「今回の依頼は他でもない。あるやつについて調べて欲しいんだよ。」


続く

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